部屋と沈黙

本と生活の記録

持ち運びのできる小さな箱

恋に落ちるっていいね!ほんとにいいね!!『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』に恋のときめきを思い出させてもらえるとは予想していなかった。初対面なのにクララの帽子がずり落ちてるところなんか間が抜けてて超可愛いし、「正しくないこと」を選ん…

“偏執狂”狂

ピンチョンの解説が収録された新訳版『1984年』のリンクを張り付けながら、本棚のなかで眠っている『競売ナンバー49の叫び』のことを考える。新潮社トマス・ピンチョン全小説のなかの一冊で、奥付は2011年7月30日。当時勤めていた書店のブックカバーがかかっ…

海のノート

香月泰男の海 『香月泰男画文集 〈私の〉地球』から、海や水辺を連想させる作品を選んでみた。香月の代名詞といえばシベリア・シリーズだけど、個人的には、こういう1940〜50年代に描かれた作品が気になっている。 この夏、山口県立美術館ではシベリア・シリ…

2、1。

ゴールデンウィーク9日目は無為に過ぎ去った。こんな日もある。ゴールデンウィーク最終日。ひと通りの家事を済ませ、スマートフォンのメモアプリに記したゴールデンウィーク中のToDoリストを消化していく。今日は「冬物の洗濯」と「NHKラジオ『歓待する文学…

7、6、5、

ゴールデンウィーク4日目。午前中に家事を済ませ、きのう自分の本棚から“発掘”してきた金井美恵子の『愛の生活』を読む。時間軸が曖昧にスライドしていくせいか、妙な浮遊感を覚える。「生活の断片を書いて、生活を書いたつもりの人たち」という言葉に絶句。…

門司港グランマーケット2018秋

先週末は門司港グランマーケットへ行ってきました。山口県長門市にある〈ユーカリとタイヨウ〉の焼き菓子。二日目の午前中で、もうほとんど残っていないなか、発酵バターとチョコチップのクッキーを買う。同じブースで〈COFFEE & ROASTER YAMA〉のコーヒー。…

きのう、今日

休日の午前中が好きだ。よく晴れて、暑くもなく寒くもない今日みたいな秋の日が好きだ。きのうは朝のうちに部屋の掃除をすませ、お昼にベーコンとトマトと小松菜のパスタを作り、午後は林檎をジャムにし、天日干しした羽毛布団にカバーをかけて気持ちよさを…

小鬼と新しい商売

武井武雄の描く童画には毒っ気がある。子どもの心に棲む可愛い小鬼が悪戯っ子の目で笑う、そんな雰囲気がある。このあいだは武井武雄展を観に周南市美術博物館へ行ってきた。子どものために描かれた童画のほか、版画や玩具“イルフトイス”も展示されている。…

キッチンバサミのポテンシャル

切れ目の入っていないピザを包丁で切り分けるのが面倒で、試しにキッチンバサミを使ってみたら、思いのほか上手くいった。キッチンバサミのポテンシャルは高い。そう気がついたのは、料理上手の友人がキッチンバサミで小葱を切り、そのまま汁椀のなかへ落と…

〈私たち〉のなかの〈私〉たち

文庫化された『英子の森』を読みながら、松田青子は新ジャンルだなぁと思う。収録作の「*写真はイメージです」や「おにいさんがこわい」は特に、言葉を使ったアートのようだ。たとえばリディア・デイヴィスの『ほとんど記憶のない女』とか、このあいだ松田…

新しい年、新しい一日

昨年夏に祖父が亡くなり、今年の年明けは静かに過ぎていく。 7月17日(月)晴れ じいちゃんのお見舞いへ行ってきた。もうほとんどの時間を眠って過ごしているという。話しかけるとまぶたが開いて、薄青色の目が見える。その目尻が少し濡れたような気がした。…

本を切符にして

ブランケット・シティは毛布をかぶった小さな街。主な交通手段は街の中心を走る環状鉄道〈ブランケット・ドミノ・ライン〉です。〈デイリー・ブランケット〉紙に連載中のコラム『ブランケット・ブルームの星型乗車券』をたよりに街を歩けば、一般的なガイド…

陶器市と猫

寄り道したイオンで陶器市が開催されており、予定外の出費。木製の汁椀と益子焼のカップ&ソーサー、信楽焼のプレートを色違いで2枚購入した。とはいえ、ほとんどが2割引から半額の品だから、全部で4000円いかないくらい。満足して帰る。録画していたNHK Eテ…

カフェオレとノーベル文学賞

朝から音のない雨が降っている。県立美術館で香月泰男の“愛情”マグカップを購入してから、カフェオレばかり飲んでいる。カップに注いだ牛乳を電子レンジで温めて、上から濃いめのコーヒーをドリップした、甘くないカフェオレ。ノーベル文学賞にカズオ・イシ…

赤ペン先生に言いたい

日常的に図書館で本を借りていると、いろいろな痕跡に遭遇する。料理本に食べ物系のシミがあるのはまぁ可愛いほうで、ちょっと複雑なのは栞の端の玉結びだ。その結ばれ具合をみても、図書館側の運用だとは考えにくい。となれば、読んだ本が一目で分かるよう…

賭けるか、賭けないか

『職業としての小説家』が、あっというまに文庫化されている。奥付を見ると、単行本の発行はちょうど一年前。朝日新聞折り込みのGLOBEでも村上春樹の特集をしていたし、今年のノーベル文学賞に合わせているのだろうか?短篇もエッセイも、どちらかといえば好…

それはすべて同時に起こる、起こっている、起こった『淵の王』

舞城王太郎 ※当記事は、物語の内容、構成に関しての言及があります。先入観を持って読んでしまうにはもったいない作品だと思いますので、「こいつ勝手なこと言いだしたな」と感じたら、薄目でざらっと読みとばしてください。私は概ねそういうふうに〈先入観…

そういえば羽田圭介がいた

母が図書館で借りてきた本のなかに、羽田圭介の『黒冷水』があった。『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞し、「又吉じゃない方」としてメディアに登場した男。普段の読書傾向から考えると手に取りそうもない作品なのに、そこはミーハーでテレビっ…

日々の漱石

木曜日、『門』完結。105年ぶりの再連載は全104回、廃品回収のせいで1、2回分の読み落としはあるものの、とりあえずは読んだと言えるだろう。なんともつかみどころのない話だった。それが新聞連載だからなのか、1回1回のあいだに個人的な日々の生活が割り込…

インする

手のひらの文学青年「山本くん」をガチャる。山ほど本を読むから「ヤマホン」くんなんだそうだ。フィギュア付きのブックマークで(文庫本にぴったり)、ひとつ二百円全五種。私のは、傘をさした〈鍵穴の風景〉だった。ねらってたのは寝っころがってる〈月の…

むきだしの問い

「ピースの又吉直樹さん、史上初の快挙です!」アナウンサーのはずんだ声で又吉の受賞を知る。最近の芥川賞といえば、読んでもなんやようわからんかったり、横書きだったり、言い回しが独特だったりして、癖のある作品が多い気がしていたから、わりとまっと…

ふつうにしてても

サブキャラを作ってしまった ……はっ! 気づいたら――いや気づいてたけど、このあいだから『とびだせ どうぶつの森』ばかりしている。帰郷 - 部屋と沈黙せめて昼休みくらいは本を読もうと、フラナリー・オコナーの『烈しく攻むる者はこれを奪う』をかばんに入…

母の偉大さ

又吉直樹の『火花』は「難しい」とうちの母が言っていた。amazonなんかではくさすレビューが多いものの、〈難しい〉という評判は聞いたことがなかったし、私自身もとくに難しいとは思わなかった。聞くと、作中の小ネタが分からないと言う。たとえば〈カノン…

『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』

Novel 11,Book 18 ダーグ・ソールスター/村上春樹訳 中央公論新社聞きしに勝る変な小説だった。もとはノルウェイ語だからか地名、氏名に馴染めず、コングスベルグという文字を覚えるためにまず繰り返した。コング、ス、ベルグ、コ、ン、グ、ス、べ、ル、グ…

『パリ行ったことないの』

山内マリコ フィガロブックス十年間、フィガロジャポンを定期購読しているあゆこはそれでもパリへ行ったことがない。「猫飼ってるから」あゆこの言い訳で小説の中の〈彼ら〉は納得する、ことにびっくりする。「猫を飼っていること」が「パリへ行くこと」の代…

『マンスフィールド・パーク』

★★★☆☆ 『マンスフィールド・パーク』まとめ 1. 読みにくいが、分かりやすい娯楽小説 2. 性格に難あり 3. 減点主義者の愛 1. 読みにくいが、分かりやすい娯楽小説 もってまわったような文章(訳文)がやや読みにくいが、ストーリーは単純で分かりやすい。貧し…

小確幸と大爆発

小確幸 〈しょうかっこう〉 (名詞)小さいけれど確かな幸福のこと。村上春樹氏が作って広めた。 (例文)冬の夜に猫が布団に入ってくる瞬間が私の小確幸だ。 うちに帰って、お酒を飲みながら本を読むのが私の小確幸。大抵は図書館で借りた本を読む。マルケ…

洗練された〈死にゲー〉アウターワールド

実験装置に起こったアクシデントによって異世界へ飛ばされてしまったレスター教授があっさり死にまくるアクション系脱出ゲーム〈アウターワールド〉。マリオのAジャンプ、Bダッシュに親しんでいる身としては、AダッシュにBジャンプであること自体がすでにス…

『ダンジョン飯』1

九井諒子 BEAM COMIXたとえばナマコとかウニとかイカとかカキとか、あんな宇宙生物みたいなやつらをよう食べたな、食べようと思ったよな。そりゃあ大きく見ればみんなが宇宙の生き物だけど、それにしてもなんて美味しいんだろうウニ!イカ!もしかしたら今日…

『プラトニック・プラネッツ』

雪舟えま メディアファクトリー今も彼のことを元彼と呼べずにいる。別れの言葉もその兆しもないまま、開いていた扉が閉じるみたいに、とにかく駄目になったのだ。彼の父親は治る見込みのない病気を患っていた。私は心配し、何も言ってくれない彼に怒り、悲し…