部屋と沈黙

本と生活の記録

『プラトニック・プラネッツ』

f:id:roomandsilence:20141229222222j:plain:right雪舟えま メディアファクトリー

今も彼のことを元彼と呼べずにいる。

別れの言葉もその兆しもないまま、開いていた扉が閉じるみたいに、とにかく駄目になったのだ。彼の父親は治る見込みのない病気を患っていた。私は心配し、何も言ってくれない彼に怒り、悲しくて泣いた。自分には何の価値もないと、頭の中で、何度も、暴力をふるった。

いつか「どんな本を読むんですか?」という彼に、「内田百けんとか。いつも怒ってて面白いです」と答えたのを覚えている。

一年と三カ月後。彼からの突然の返信は黒くて無表情だった。新しい仕事と父親の死。彼からの連絡はまた途絶えた。

「彼女が去ったことより、彼女にもらったもので、やっていけそうです、おれは」
「ひとりで歩いてゆける力を、つけてやるのが愛なら。君は愛をくれた」

雪舟えま『プラトニック・プラネッツ』より

そもそも小説や読書に自己啓発的なものを求めておらず、むしろ本を読んだくらいで啓発されてたまるかと思っているのに、これにはあっさり救われてしまった。なくなったもの、出来なかったことばかりを数えて長いあいだ私を罵り、傷付けていたのは私だった。そういう自分を手放したい。

この物語が、私にもう一つの目をくれる。

今週のお題「2014年のお別れ」〈2014年をふりかえる 3〉