面白そうな作品の近くには大概、柴田元幸か岸本佐知子がいる。訳者、解説、帯の文句、海外文学ビンゴゲームのアタリみたいな人たちだ。今回は岸本佐知子が「魂の双子」帯を、柴田元幸が解説を寄せ、マーク・トウェイン、ヘミングウェイ、フラナリー・オコナーから続く「すぐれた声」の持ち主として、トム・ジョーンズを評している。
まず作者よりも訳者の名前が大きいのに驚く。狂気と絶望を物語る「声」の文体は、赤と緑の波線でもってワードに怒られそうだ。
「風がまるで飛んでるカミソリみたい」な寒波(コールド・スナップ)がやってきた町で、躁鬱病の兄と精神を病んだ美しい妹はどこへも行けない。エホバのパンフの風景画や、上澄みだけのアフリカ、ポンコツの青いダッジでドライブした天国の光景。そんな「手製の希望」に救いを求めるしかない絶望の袋小路で、彼らはご飯を食べる。
俺はデリの持ち帰りの箱を開けて、白いブッチャーペーパーに包まれた、手作りパンを使ったチキンサラダのサンドイッチの半分に切ったものを広げる。サンドイッチにはアルファルファやおろしたチーズがはさんであって、赤色や青色や緑色をしたセロファンのリボンのついた楊枝がそれぞれに刺さっている。そしてその横には完璧な出来映えでこりっとしているニンニク風味の大きなピクルスが二つ添えてある。それからヨープレイトのイチゴヨーグルト二つと、ホイップクリームのかかったフルーツサラダが二つと、小さな木製のスプーンと、二つの大きな、香りのいい、熱い、いれたてコーヒーがある。
絶望は絶望のまま、狂気はさらなる狂気に絡めとられてしまう作品が多い本書で、表題作にはささやかな希望がある。クソったれのこの世界にある「手製の希望」よりも確かな繋がりと、温かいランチ。私にはこの食事の描写がエデンの園みたいに思える。
ぐっとくる兄妹ものといえば、市川春子の「日下兄妹」を挙げたい。兄と妹の物語はどこか甘く、感傷的だ。私には兄がいないからそう思うのかもしれないけど。▼