部屋と沈黙

本と生活の記録

『パリ行ったことないの』

f:id:roomandsilence:20150405195153j:plain:right山内マリコ フィガロブックス

十年間、フィガロジャポンを定期購読しているあゆこはそれでもパリへ行ったことがない。

「猫飼ってるから」

あゆこの言い訳で小説の中の〈彼ら〉は納得する、ことにびっくりする。「猫を飼っていること」が「パリへ行くこと」の代わりになるのかと勘違いしたからだった。

読み進めればなんてことはない「猫の世話があるから行けない」そういうことなのだ。でも、「猫を飼うのはパリへ行くようなもの」という私の読み違いは、しばらく眺めていたくなるほど嬉しい間違いだった。

これが犬だったら私もすぐに納得していただろう。今も犬と暮らしているし、世話が必要なことも分かる。でも猫には、そう思わせるだけの〈何か〉がある。行ったことのないパリと、飼ったことのない猫は、私の中で等しく奔放な不思議の対象なのだった。

パリ行ったことないの (フィガロブックス)

パリ行ったことないの (フィガロブックス)