部屋と沈黙

本と生活の記録

『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』

f:id:roomandsilence:20150606224545j:plain:rightNovel 11,Book 18
ダーグ・ソールスター/村上春樹訳 中央公論新社

聞きしに勝る変な小説だった。もとはノルウェイ語だからか地名、氏名に馴染めず、コングスベルグという文字を覚えるためにまず繰り返した。コング、ス、ベルグ、コ、ン、グ、ス、べ、ル、グ、みたいに。ビョーン、ツーリー・ラッメルスも不思議な響きがする。

物語は主人公のビョーン・ハンセンが、――何をする話なんだろう。たしかに彼は、ある愚かな計画を実行に移すんだけど、それが物語の核心ってわけじゃない。ビョーン・ハンセンのまわりをぐるぐる、それこそ〈微に入り細をうがって〉繰り返し、語り続けていく。にもかかわらず、語れば語るだけ彼は見えんように、分からんようになっていく。

とはいえひとつひとつを取り上げると、ごくありふれた話なのね。妻子を捨てる、とか、後年その息子と暮らす、とか。彼の愚かな計画だってありそうな話だ。いや、数年前ほんとにあったよね!ものすごい大仕掛けのコントみたいだったけど。

こだまのように、内的認証のように、ひとつの連続として、あるいはまたようやく本来の進路を見つけ、最も深いところをつたって静かに、人目につかず流れる川のように。 p238

これはビョーンが抱く深い満足感を表した文章なんだけど、本作の読み心地もまさしくこんな感じ。あとがきによると、タイトルの『ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン』は作者にとっての〈11冊目の小説、18冊目の著作〉というだけの意味で、タイトルというかもうラベルみたい。ドライでくっそかっこいい。


NOVEL 11, BOOK 18 - ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン

NOVEL 11, BOOK 18 - ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン