部屋と沈黙

本と生活の記録

そういえば羽田圭介がいた

f:id:roomandsilence:20160430170140j:plain:right母が図書館で借りてきた本のなかに、羽田圭介の『黒冷水』があった。『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞し、「又吉じゃない方」としてメディアに登場した男。普段の読書傾向から考えると手に取りそうもない作品なのに、そこはミーハーでテレビっ子の母。ひんしゅくを買うこともあるという彼のテレビ出演が、新しい読者を生んだのだ。正確には「金にならない読者」だけれど。

羽田圭介のデビュー作『黒冷水』は、兄弟間の家庭内ストーキングをめぐる物語。結末のひっくり返し方なんかはありがちかなと思ったものの、弟への憎しみを再認識し、自らの内の〈黒冷水〉を自覚するあたりはとてもよかった。憎しみは怒りと違って、己を侵食するほどに“冷たい”。どちらかといえば〈もの語り〉よりも感情や衝動を描写するのが上手い作家なのかもしれない。

知るほどに気になる、妙な人だ。ウィキを口語訳したような羽田圭介まとめサイトをまとめると、おそらく彼は筋の通った変人である。支離滅裂な変人は狂人ゆえ恐怖でしかないが、筋を通してくる変人の強烈さはちょっと他にないほど興味深い。だからメディアが放っておかないし、読者ではないファンがつく。あと、顔がおもしろい。