部屋と沈黙

本と生活の記録

カフェオレとノーベル文学賞

朝から音のない雨が降っている。

県立美術館で香月泰男の“愛情”マグカップを購入してから、カフェオレばかり飲んでいる。カップに注いだ牛乳を電子レンジで温めて、上から濃いめのコーヒーをドリップした、甘くないカフェオレ。

ノーベル文学賞カズオ・イシグロ。昨年のボブ・ディランといい、選考委員が一新したのかと思う結果だ。こういう表現は不本意だけど、この私でさえ知っていて、カズオ・イシグロの作品については何冊か読んだことすらある。
ノーベル文学賞といえば、玄人好みの重鎮に与えられるものだと勝手に思い込んでいた。たとえば、みすず書房白水社国書刊行会あたりの出版社が熱意を持って紹介するような。受賞者が発表されたものの、邦訳された作品の数が少ない、なんてことも往々にしてあったように思う。
それに比べれば、カズオ・イシグロの作品はほぼ邦訳され、文庫本にまでなっている。今回のノーベル文学賞がより身近に感じられるのはこのためだろう。7日現在、amazonでは軒並み在庫切れ。これをきっかけに、日本の海外文学シーンが盛り上がってくれるといい。

受賞理由からすると『わたしを離さないで』や『忘れられた巨人』あたりを示しているように思われるけれど、傑出しているのはやはり『日の名残り』だろう。ひとことで表すなら「老執事の遠まわり小説」で、語りが遠まわしなら、恋も遠まわり。自分のことすら遠まわしに眺め、延々とまわり道をした挙句、ある人との再会によってようやく自分自身に近づく。過ぎ去ってしまった日々に対する悲哀と、生真面目さから生まれる可笑しさがごっちゃになった結末がとてもいい。
アンソニー・ホプキンス主演で映画化もされている。こちらはロマンスに焦点が当てられているせいか小説の印象とは少し違うけれど、一冊の本を介した息がつまるくらいの素晴らしいシーンがある。おすすめ。

受賞後のインタビューで村上春樹に言及したのもおもしろい(彼は“ムラカミさん”と呼んでいた)。さて、来年はどうなるか。
個人的には変わらず多和田葉子推しです。

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)