部屋と沈黙

本と生活の記録

the band apart “POOL e.p.”リリースライブ SMOOTH LIKE BUTTER TOUR 感想

大学生のときにthe band apartがアレンジした“WHEN YOU WISH UPON A STAR (星に願いを)”を聴いたのが、そもそもの始まりだった。音楽開拓民だった当時の私は、その曲が収録されているディズニーのトリビュート・アルバムをレンタルショップで見つけ、新しく好きになる音楽を探すにはもってこいだと思ったのだ。

“ディズニーならよく知っているし、ピンとこなくても退屈はしないだろう”

それから約15年。ファーストアルバムが発売されると知ったときの高揚感は、今でも忘れられない。だからこそ、今回、初めてライブへ行こうと決めたとき、楽しみな反面、不安もあった。お金も、一人でライブへ行く度胸もなかった若いころの私の期待が重かった。

2019.10.25 Fri.
福岡BEAT STATION

10月下旬の18:30はもう夜の暗さ。ライブ会場を取り囲むように人々が列をなしている。何人かに声をかけて整理番号を聞き出し、真ん中あたりに入れてもらう。一人で来ている男性客が多い印象。半袖のTシャツに麻のシャツを羽織っただけでは肌寒い。

入場後、ドリンクカウンター前のスペースでビールを飲む。ハイネケンってそんなに好きじゃないと思ってたんだけど、おいしかったな。通路を挟んだ向かい側には物販の列。売り子は川崎さん。原さんは隣で豆腐と夢(チンチロリン)を売っている。

セットリストは覚えていない。もとい、覚えられない。聴いているときはただ聴いているだけで、「覚えよう」みたいな自我をねじ込む余裕がない。覚えようとすると意識散漫になって聴けなくなる、哀しきシングルタスク。

「昔は、新譜が出たらライブ前に聴いてこいと思ってた」という荒井さんの言葉に内心動揺する。実はまだ“DEKU NO BOY”を聴いただけで、新譜は持っていないんです、同じものを買うなら直接物販で買った方が委託料がいらないぶん儲けになるかなと思っーーそんなことより荒井さんの地声って素敵だな……などと頭の中で言い訳をしていたら、「今は、ライブに来てくれるだけでありがたい」と言われ、ほっとした。

MCのあいだ真顔でフロア後方を見据えたまま表情を崩さなかった川崎さんは、原さんに「竹野内豊を意識してるのか」と問われ、「少し、してる」と一瞬笑顔になった。なんかもう、それだけでいい。赤ちゃんが笑い始める時期に偶然居合わせたような幸福感。

木暮さんの頭上では刈り入れが行われ、「畑」の水捌けが良くなったために、汗がすごいらしい。

原さんは、見ているだけで元気が出る。歌舞伎役者のように見栄を切ったかと思えばニコニコしたり、顔面もろとも絶叫したり、それであのベース。まじでかっこいい。原さんはほんとにかっこいい。

ライブ前に私が抱いていた不安は杞憂だった。うまく言えないけれど、the band apartthe band apartだった。過去に発表された曲を聴いても、懐かしいとは思わなかった。the band apartは私にとって、ずっと「今」だった。彼らの音楽は一度も過去になることなく「今」と一緒にあった。
できることならこれからもそうであってほしい。「今」を続けていってほしい。それを見ていたいと思う。

ライブが終わってから物販の列へ。前に並んでいた人に便乗して、売り子をしていた川崎さんに握手を求めたら、ぐっと、思いのほか手応えのある握手をしてくださって、こんな私にも首脳会談並みの真剣さで握手をしてくれるんだと、すごく感動した。なんというか、同じ場所に引き上げてもらったような感覚で、アイドルの握手券に大枚を叩くファンの気持ちが少し分かったような気がした。彼らの目的はアイドルに会いに行くことなんだろうけど、握手をして、自分自身のことも深く実感しているんじゃないかと思う。他者との接触が自己の存在感を肯定する、これってほぼセラピーだよね。そこに目をつけて商売にした、某プロデューサーの手腕(えげつなさ)よ。

物販ではTシャツと、暗闇で光るキーホルダーを購入。

ちなみに原さんも物販に戻ってきていたけれど、顔がこわすぎて近寄れなかった……。憧れの先輩を遠巻きに眺める女子高生の気持ち。年齢を重ねるにつれて大抵のことはできるようになったはずなのに、原さんの近寄り難さを乗り越えられる日が来るとは到底思えん。

セットリストを覚えていない代わりに、今回のライブでやっていない曲の中から、次のライブで聴きたい3曲を選んでみようとひと通り聴きなおし、今また“alfred and cavity”がすごく良い。
気になって当時の日記を見返してみたら「the band apartの3rd、最高にかっこいいよ!!12曲全部かっこいい!リズム、リズム、リズム、メロディ、メロディ、メロディ!」と書いてあった。22歳の誕生日。過去の日記なんて概ねクソみたいだから燃やしたくなるけど、こういうときに便利だし、たまに「10円玉を食べる夢を見た。で、ギザジュウまで食べそうになって、あぶねぇってなって。集めてんのに」みたいな記述が出てくるからアホらしくて燃やせない。

alfred and cavity

alfred and cavity

気を取り直して、3曲に絞るのが相当難しかった……。30日後に同じことをやったとして、また違う回答になると思う。

1.from resonance
聴きたい。これは多分、30日後でも30年後でも変わらない。
2.ARENNYAで待ってる
ストレートに「苦しいよ」って歌うところが無性に好き。なんか、捻くれているようで、本当はすごく真っ直ぐな感じがするから。
3.free fall
20周年記念リクエストツアーでトップ15に入らなかったのが不思議だ。