部屋と沈黙

本と生活の記録

ZAZEN BOYSツアーMATSURI SESSION 感想

NUMBER GIRLが解散したあともNUMBER GIRLに夢中だったがために、ZAZEN BOYSのことは「向井秀徳NUMBER GIRLの後に始めたバンド」という認識しかなく、たまに思い出してはyoutubeで聴いたり、アルバムを買ったりするくらいだった(持っているのは、なぜか“3”と“すとーりーず”)。ヘンテコなのにストイックな佇まいが印象的で、そのたびに「やっぱり向井秀徳はかっこいいな」と思いを新たにするものの、NUMBER GIRLの音楽ほど私の生活に根付くことはなかった。

2019.12.6 Fri.
福岡DRUM LOGOS

警固公園通りからドラムロゴスへ。お昼に降った雨のせいで思いのほか冷え込み、吐く息は白い。パーカーに薄手のダウンという格好で、寒さから早足になっていた私の横を、救急車がサイレンを鳴らしながら追い抜いて行く。不穏な空気。

2日前に大阪BIG CATで行われたライブでの様子から、Twitterにはカシオメンの体調を心配するコメントがいくつも投稿されていた。なかにはライブの出来に落胆するコメントもあり、ここ数日の“#zazenboys”には不穏な空気が漂っていた。

スマートフォンを取り出し、今朝からずっとそうしているように、Matsuri Studioのタイムラインを更新する。「公演中止」のアナウンスがないと分かっても、安心はできなかった。

18:30、開場時間を過ぎた会場前は閑散としている。並ばずに入場し、ドリンクカウンターでビールを受け取る。銘柄はアサヒスーパードライ(たぶん)。ドリンク代は500円で、アルコールの場合はプラス100円を支払う。
数日前まで晩酌を控えていたせいか、ビールでも良い感じに酔いが回る。とはいえ、1杯では持続力に難ありで、なんとか維持しようと“酔い”に集中することにした。酔っ払いながら好きな音楽を聴くのは気持ちがいい。開演時間が迫るにつれて、会場は人であふれていく。

ZAZEN BOYSのライブを観るのはこれが初めてだったから、これから書くことは憶測でしかない。冒頭にも書いたとおり、ZAZEN BOYSに対しては、ヘンテコかつストイックな印象を持っていた。唯一無二の「ある一点」を目指して収束していく殺伐としたビート。あるいは「いかに向井秀徳を満足させるか」に神経を尖らせているような。

MIYAの加入なのか、カシオメンの不調なのか、理由は分からないけれど、今回の福岡において、そういうピリピリした雰囲気は感じられなかった。

椅子に座った状態のカシオメンを一喝し、ブルースを弾くよう促す向井秀徳(鬼)。ただ、そこに殺伐さはなかった。ひりつくほど生身の、剥き出しの音楽だった。地鳴りのようなドラムとベース。ポテサラが食いてえ、猫の交尾がうるせえなどと叫びながら、突然、不在や過ぎ去った日のことを歌い始める。ほとんど文学だ。その上で、かっこつけるところはきちんとかっこつけるんだから、それが本当に、恐ろしくかっこいい。

高校生だった私がNUMBER GIRLに惹かれたのも、向井秀徳が持っているこのセンチメンタルな衝動のせいだと、今なら分かる。「記憶を消して」「忘れてしまった」と、取り憑かれたように繰り返す“性的少女”。

本公演アンコールのラスト、“破裂音の朝”の鬼気迫る感じは忘れられない。
その中心にいるのは、頼もしい親玉としての向井秀徳だった。

それは10年前の それは100年前の
1万年前の俺たち

「美人は3日で飽きる」というのは嘘だ。美人な友人は会うたびに美人だし、ストイックなほど美しく整ったものは見ていて飽きない。でも、それと同等か、もしくはそれ以上に、情念、感傷的な衝動、ままならなさに類する歪さに惹かれてしまうのだ。