部屋と沈黙

本と生活の記録

小さいけれど響く声

連休前に少しでも雑務を片付けておこうと残業申請をしたせいで、スティーヴン・ミルハウザー『ホーム・ラン』刊行記念イベントのYouTube配信を思い出したときにはもう、開始時刻を15分も過ぎていた。

2時間前にざっと降った雨の名残りのなか、急いで自宅へ戻る。URLをタップし、途中参加の心許なさに自分自身を馴染ませていたところで、ちょうど「短篇小説の野心」の朗読が始まった。

「一粒の砂に宇宙をみる」というフレーズに引っ張られて、チャールズ&レイ・イームズの“POWERS OF TEN”を思い出す。極小を突き詰めていくと、いつのまにか翻って極大と同一化する感覚。ループしている、輪になっている。極小も極大も、最終的には「すべて」になって、拡散していく。

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初版は1983年。私の手元にあるのは2003年の11刷で、19か20の冬、駅前の大型書店で購入したことを覚えている。理工学の棚は人もまばらで、とても静かだった。今のところ書籍は品切中のようだけれど、YouTubeには9分の映像が残されている。

私自身も、どちらかといえば小さいものに美しさを観る。“Less is More”、ドイツ出身の建築家ミース・ファン・デル・ローエの言葉だ。

ただ、大きいものだけが持つ圧倒的な存在感にも魅了されてしまう。風力発電の風車の群れ、高架鉄道を支えるコンクリートのかたまりと、それらに遮られた朝の光。ただひたすら「でかい」のってそれだけで驚きだし、圧倒されて意味が分かんなくなる瞬間が好き。

いずれにせよ、目の前に二つの道があったとき、私が選ぶのは小さい道だ。片手で持てるくらいがいい。小さい道も大きい道も、辿り着きたい先は同じ。ならば、私はこちらから行く。

切り替え可能な小さいチャンネルでありたい。小さいけれど響く声で、今を書きたい。自分のために。


おまけ
柴田先生がおっしゃっていた、なかなか書き上がらないケリー・リンクの長篇小説が気になる。どんな“novel”になるんだろう。

“MONKEY”2号に掲載されたケリー・リンクの短篇「モンスター」は、会話やシーンの組み立て方が本当にかっこよくて、映画的ですらあった。もちろん、いちばんの魅力は、無垢で軽薄、かつ残忍なモンスターのキャラクターだ。子どものように笑う、醒めた狂気。

ホーム・ラン

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プリティ・モンスターズ

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