部屋と沈黙

本と生活の記録

the band apart “kirigaharetara” MV感想

木曜の晩に、バンアパの新しいMVが公開された。“AVECOBE”に続き、バンアパスタッフりきせ君*1が監督をしたらしい。今回も、木暮さんが「忌憚なき意見を」とおっしゃっていたので、ここに書いておく。YouTubeのコメント欄に書くにはおしゃべりがすぎるし……。*2


the band apart “kirigaharetara” MV

この曲は、あるグランピング施設のBGMとして原さんが作ったもの。正直なところ、音の印象やタイトルの“kirigaharetara(霧が晴れたら)”と、風車(かざぐるま)のイメージが結びつかない。私が風車でいちばん最初に連想したのは、つげ義春だった。

風車→つげ義春→ちゃんと読んだのはエッセイだけ→本棚に1冊ある→風車の描写なんてあったっけ?→「ねじ式」は書店員だったころに店頭で流し読み→ガロ系佐々木マキ佐々木マキなら漫画が本棚にある→

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というわけで、つげ義春の『貧困旅行記』と佐々木マキの『うみべのまち』を本棚から引っ張り出し、めくってみたが、風車の描写はなかった(と思う)。

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自分でも、なんでつげ義春を連想したのかはよく分からない。でもこの風景、すごく風車っぽい雰囲気じゃない?……ていうかこの写真、まさしく“つげ義春”的で良いなぁ!

なんだか前置きが長くなったけれど*3、平たく言えば、バンアパスタッフりきせ君と私とでは「風車」のしまわれている場所が違うのだ。だから、このMVについてはぴんとこない。ただ、しまわれている場所が違うっていう状態そのものはおもしろいと思う。

ちなみにこっちは施設側が作った動画らしい。施設のプロモーションだからか、映像そのものの作品性は感じない。なんだろう、ありがちというか、なんとも思わない。良いとも思わないし、悪いとも思わない。無風。

もし私がこの曲のMVを撮るとしたら、タイトルの“kirigaharetara(霧が晴れたら)”から連想して、1日のうちで“何かを待っている”わずかな時間を採集してみたい。たとえばお湯が沸くのを待っている薄暗い朝、車のなかの信号待ち、意味もなく食券をもてあそぶ午後、待ち合わせ。

生きることって、そういう、くだらないようにも思える無数の待ち時間の連続じゃん。お湯が沸いたらコーヒーを淹れる、青になったら進む、出されたうどんを食う、手を繋ぐ。“何か”がおこる、そのほんの少し前、を集めたい。“何か”と“何か”のあいまにある、取り立てて記憶されない時間。そういうバックアップされない時間のなかに、本当の“何か”があるんじゃないかと思ってしまう。そうやっていつも、霧が晴れるのを待つように生きる。原さんがインタビューで言っていた「晴れ晴れとした天気のなかで川に向かっているような気持ち」とは、ちょっと違うけどね。

ネット上の評判としては、賛否両論ってところなのかなぁ。気になるのは、ただ文句だけ言う人だよね。今回のMVに限らず、なんでも、ただ文句だけ並べる人っているじゃん。「最悪!」「ね〜!」みたいな、おもしろみのない人たち。

なにが気に入らないのか。自分ならどうするか。

私は、文句を言うなとは言っていない。むしろ文句を言え、と思う。誤解を恐れずに言うと、悪口がおもしろいのは、それが新たな創造性の入り口になり得るからだ。なにが気に入らないのか。自分ならどうするか。文句を言いながら扉を開けて、私は別の場所へ行きたい。扉の前で、その気に入らなさをただひたすら撫でているだけなんてつまらない。文句もひとつの表現ではあるけれど、それだけではクリエイティブとは言えない。おもしろみのない人たちのおもしろみのない文句なんて当然おもしろくないんだから、真に受けたっておもしろくはならない。

ZAZEN BOYSの“You make me feel so bad”を思い出してほしい。笑えるくらいかっこいい悪口の歌だよ。に!どと!あい!たく!なーい!ゆー!めいく!み!ふぃーそばー!

配信で木暮さんも言っていたけれど、やりたいと思ったことをちゃんとかたちにするのってすごいことだと思う*4。だから、責任の伴わないネットの僻地であれこれ言う私だって、ただ文句だけ言っている人たちとそんなに変わらないのよね。

ともあれ、1本のMVとして完成させたのはすごいし、作品性もある。ただ、そんなに良いとは思えなかった。……いやー、評されるのって地獄だよね。創作は地獄の始まり。私だって、おもしろいって思われたいもん。自分がおもしろいと思って書いたことを、誰かにもおもしろいと思ってもらえたら、それに勝るものなんてない。

そういえば“MTZ”のMVも公開されている。


the band apart “MTZ” MV

個人的には、ラストシーンが超怖い。途中までは「エンディングで走るアニメは名作」という格言(?)を思い出しながら見ていた。

走るという行為には、ふたつの方向性がある。ひとつは何かに近づくため、もうひとつは何かから遠ざかるため。笑っているようにも、不安気にも見える女の子の表情からは、そのどちらとも判断がつかない。場の空気をつかめないまま、ラスト、女の子をつけていた男が車から降りてきて……。まじで怖すぎる。私だけ?みんなはどう感じたんだろう。曲はもちろんかっこいい。

まぁ、ただひたすら女の子を走らせたい、という欲望で撮ったMVなら、それはそれで最高。欲望の前では意味なんて無意味だよ。私が見出した意味よりも、私が見出せなかった理由を提示されるほうが100倍おもしろい。私は私とずっと一緒にいるから、正直ちょっと飽きている。

誰でもいい、私が見出せない何かをもっともっと見せてくれないか。


おまけ

もしかして、これも原さんが提供した曲なのかな?万年にわかファンだから知らない……。なんかSPECIAL OTHERSぽい感じもする。“kirigaharetara”よりも好き。

*1:ようやく名前を覚えた。

*2:いつもそう。

*3:ちなみに「ガロ系」のところでもうひとつの→が発生し、400字以上脱線しはじめたのでカット。私の話は基本的に脱線する。

*4:ゲストの山﨑聖之を評したときの発言だった。