部屋と沈黙

本と生活の記録

きのう、今日

休日の午前中が好きだ。よく晴れて、暑くもなく寒くもない今日みたいな秋の日が好きだ。

きのうは朝のうちに部屋の掃除をすませ、お昼にベーコンとトマトと小松菜のパスタを作り、午後は林檎をジャムにし、天日干しした羽毛布団にカバーをかけて気持ちよさを味わっていたら、夜まですっかり眠り込んでいた。「夜中だから」と林檎を半玉食べたら余計にお腹が空いて、チルドのシュウマイとごぼうのサラダをおかずにご飯を食べた。それから、ポール・オースターの『幽霊たち』を終わりまで読んだ。久しぶりにおもしろいと思える本だった。

まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる。ブラウンがブルーに仕事を教え、こつを伝授し、ブラウンが年老いたとき、ブルーがあとを継いだのだ。物語はそのようにしてはじまる。舞台はニューヨーク、時代は現代、この二点は最後まで変わらない。ブルーは毎日事務所へ行き、デスクの前に坐って、何かが起きるのを待つ。長いあいだ何も起こらない。やがてホワイトという名の男がドアを開けて入ってくる。物語はそのようにしてはじまる。

簡潔でかっこいい書き出し。はじまりから終わりまでのあいだに、ブルーの見え方や印象がくるくる変わっていく。見る人は見られる人、見られる人は見る人……。その反転が起こす自我の揺れみたいなものが、読む人自身にまで及ぶ、そういう本だと思った。訳は柴田元幸、「ニューヨーク三部作」の二作目。『ガラスの街』と『鍵のかかった部屋』も読んでみよう。

それからは眠気のままにソファで眠り、そうして今日がはじまった。

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)