部屋と沈黙

本と生活の記録

TikTokと書評にまつわる読書界隈の炎上について

斜陽の読書界隈が炎上している。

Twitterからおすすめされる〈本〉のトピックをスクロールしつつ、なんだかやたら「書評」と「TikTok」で盛り上がってるな〜と思ったら、ある書評家のツイートが炎上していた。

いわく、書評家の「TikTokなんかで本を紹介するのは杜撰な方法である」「彼は書評が書けるのか(書けないだろう)」という煽りに対し、TikTokで本を紹介しているインフルエンサーの彼が「書けません」「でも、素敵な本を多くの人に知ってもらいたい」と応え、多くの人が彼を擁護したものの、結局「TikTokへの投稿をお休みします」という、なんというか、なんじゃそれ案件である。

読書の入り口には上も下もない。最初はみんな“にわか”だし、高尚だとか低俗だとか、いわゆる「権威づけ」をし始めると、どんな界隈でも途端におもしろくなくなる。たとえば上下関係至上主義者の言うことなんて概ねつまんないじゃん。「先輩だから」とか、理由としてひとつもおもしろくない。先輩であっても、人として尊敬できなければそれまでだよ。

とはいえ「TikTokへの投稿をお休みする」のも、誰かに何かを言われたくらいでやめちゃうのか……と思ってしまう。意地悪すぎるかなぁ。私だってネガティブな言葉を投げつけられたらやめちまいたくもなるだろう。でも、たぶん私は「じゃあ、やめます」みたいな人より「うるせぇ、バカヤロー!」くらいの人が好きなんだよ。そうなりたい。そっちのほうが、わがままで偏屈でかっこいい。「自分の感受性くらい*1」だよ。本当にやりたいことは、やめられない。

くだんのバズったTikTok*2は、まぁ……、あらすじを喋っているだけのような気がしたな……。おもしろい本のあらすじがおもしろいのはよくあることだから、それを差し引いたあとの、その人自身のおもしろさを見てみたい。トーマスのチューイングキャンディを握りしめながら「自宅の鍵を無くした」「文庫本が35冊買える」とか言ってる動画は良かった。

ちなみに私がどうやって読みたい本にアクセスしているかというと「これまでの読書経験と書店勤務経験に基づいた連想」になっちゃってるから、あんまり普遍的じゃないんだよね。私がよくやるのは、新刊リストをざっと見て、そこからピックアップする方法。読書を始めたばかりの人はたぶん、その「ピックアップ」が難しいんだよね。チェックするポイントは「著者」「出版社」「装丁」の3つ。このうち「著者」と「出版社」は経験に左右されがちだから、慣れないうちは「装丁」で選んでみるのはどうだろう。いわゆる「ジャケ買い」。

ジャケ買い」って結構おもしろくて、たとえば私がよく読む作家は名久井直子が装丁していることが多いし*3、あとはコズフィッシュだよね!祖父江慎!!!

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これは祖父江慎も装丁に関わっている『きのこ文学名作選』と『胞子文学名作選』。穴が空いてるし、ぶつぶつだし、すけすけだし……。きのこと胞子にまつわる作品のアンソロジーだから、1人くらい、好きな作家が見つかるかもしれない。好きな作家が見つかれば、そこから連想していけばいいんだよ。この本も、いつかちゃんと紹介したいなぁ。

ちなみに『胞子文学名作選』には、私の“三大推し小説家”のうち、尾崎翠多和田葉子がピックアップされている。しかも尾崎翠の作品は『第七官界彷徨』だぜ!最高!!!

読書なんて、それほど役に立たない。読書家でも家は建たないし、すごい人にもなれない。だって、わりと本を読んでいるはずの私が……こんなだぞ?バズりもしなけりゃ炎上もしねぇ、本と音楽と100円ショップの話ばかり、あとは昼寝。……いいのか!?地味だぞ!

でもまぁ、滋味なんだよねぇ。

*1:自分で守れ、ばかものよ/茨木のり子

*2:筒井康隆残像に口紅を』の紹介動画

*3:売れっ子の装丁家だから、ということもありそう。