部屋と沈黙

本と生活の記録

ベースは対話する

自らを「リズム・ベース派」と称し、安易に「ベースが良い」「ドラムが良い」などと言ってしまうけれど、それって一体何が「良い」のだろう。音楽を聴いているときのことを思い返してみる。

まずは主旋律がある。それを口ずさみ、頭のなかでベースラインを鳴らしながら、身体でリズムを取る。リズムはテンポの半分にも2倍にもなり得る。切り取り方が変わればワルツになる。ギターのリフは、ベースの後ろで鳴っている。そんな感じ。

「リズム・ベース派」ではあるけれど、メロディも好きだ。ただ、メロディと対話するタイプのベースはもっと好きだ。こっちで口笛を吹いたら、むこうにいる鳥が「ちゅん!」って鳴く、みたいな。あれ、嬉しくない!?鳥と!おしゃべり!しよるよ!!!

だから、初めてthe band apartを聴いたときも嬉しかったな。ベースが!メロディと!おしゃべりしよるよ!!!ああいう界隈のバンドでそういうベースを聴いたのは初めてだったから、本当にびっくりした。音でなされる対話みたいだ。

しかも、ベースは頷く。

たとえば『MOTHER2』のオープニング曲のベースにも、主旋律と対話している部分と、土台としてメロディを支えている部分がある。つまり、メロディの呼びかけに応えてる部分と、頷いてる部分があるのね。メロディは自由奔放におしゃべりしまくりだけど、それに応えたり、相槌を打ったり、頷いたりすんのがベースなのよ。超、かっこいいぜ!!!……どうだ、だんだんベースが好きになってきただろう!

ちなみにZAZEN BOYSは、リズム(ビート)とベースがもっと前に出ている感じ。まじでかっこいい。まじで。公式HPにはフリーダウンロードのライブ音源がある。

あと、最近Twitterで見かけておもしろかったのがこれ。……の前に、まずはiPhoneのデフォルトの着信音を思い浮かべてほしい。

……どう!?A、B、C、どれだと思ってた!?私はずーっとBだと思ってたよ。AやCの聞こえ方なんて知らなかった。

素人なりに分析してみると、おそらくAとBでは拍の入り方が違う。Aは1拍目の上にメロディの1音目が乗り、対してBは、1拍目と2拍目のあいだからメロディの1音目がスタートしている。なお、Cの構造はAと同じ(たぶん)。あとは、それぞれメロディの開始位置が違うだけ。それだけなのに、A、B、Cともに印象が違う。

私はBの聞こえ方しか認識していなかったから、本当にびっくりした。Aとか、ちょっと盆踊り系の響きがするもん。同じメロディなのに!すごくない!?iPhoneの着信音にこんな祭囃子が隠れていたなんて思ってもみなかったよ。まじでおもしろい。世界が一気に二重写しになったみたいだ。

なお、これはどれが正解でどれが不正解か、という話ではない。音楽は楽しいねって話だ。たとえばバンアパの曲だと、“Eric.W”は拍の上にギターの一音目がばしっと乗っているし(かっこいい)、“AVECOBE”は拍と拍のあいだからギターの一音目が始まっている(かっこいい)。どっちもかっこいい。


荒井さんのボーカルなし。公式には“Eric.W”の動画がないんだよな〜。

とはいえ、普段はこういうことを考えたりはしない。ただ聴いて、何かを思い出している。

最近よく聴いているシャイ・マエストロの“The Road to Ithaca”も、リズム・ベース派の人は好きだと思う。特にリズム。個人的には、このアルバムを聴いていると澁澤龍彦の『高丘親王航海記』を思い出す。異国の雰囲気がするメロディライン、複雑なリズム、根底にある仄暗い感じとか。とはいえ、くだんの小説は10年前にさわりを読んだ程度なんだけど……。

これは『高丘親王航海記』をモチーフにしたコンセプト・アルバム“invisible folklore”。2011年に発売され、ダビング(死語)させてもらいながら、結局は『高丘親王航海記』を読みきることなく10年以上が経過したけれど、こういうことがあるからおもしろい。今が読み返すときなのかも。“The Road to Ithaca”と『高丘親王航海記』はとてもよく似ている。そんな予感がする。