部屋と沈黙

本と生活の記録

赤ペン先生に言いたい

日常的に図書館で本を借りていると、いろいろな痕跡に遭遇する。料理本に食べ物系のシミがあるのはまぁ可愛いほうで、ちょっと複雑なのは栞の端の玉結びだ。その結ばれ具合をみても、図書館側の運用だとは考えにくい。となれば、読んだ本が一目で分かるよう、利用者の誰かがやっているのだ。公共物に「自分のため」のしるしを残す、その心根よ。見つけ次第ほどいて伸ばし、ページのあいだに挟んでいる。分かんなくなってしまえ。

それ以上に書くもおぞましいのは、数ページおきにはりつく毛根付きの短い毛だ……。どうか、どうかすみやかに死んでくれ。

予期しない痕跡なんて、大抵は腹の立つことばっかりなのだが、このあいだの河出書房新社刊1995年初版発行のチャールズ・ブコウスキー『くそったれ!少年時代』は、ちょっと違った。

P200 自分自身がそうしたどうしようもない落ちこぼれどもに何故か親しみを覚えてしまうということが事実としてある以上、それほど疎ましくは思わなかった。


自分自身がそうしたどうしようもない落ちこぼれどもに何故か親しみを覚えてしまうということが事実としてあることがまた、私には疎ましかった。

赤ペン先生登場。うん、これは訂正後のほうがいい。ブコウスキーと友達だったら、こっちのがいいよって言うレベル。訂正前と後で意味が全く違うのは、おそらく元々が誤訳なんだろう。原文読んでないけど。

途端に、訳者の中川五郎が信じられなくなる。翻訳文学を愛読する者にとっては致命的な天変地異。それだけ、名無しの赤ペン先生の訂正文は強烈だった。

P322 玄関のところで迎えてくれたのは、にこやかに微笑む太った少年で、生まれてからこの方ずっと火のそばで栗を食べていたかのようだ。

P331 人にタイプライターを与えたら、その人間は作家になる。

P373 わたしは人間嫌いでも女嫌いでもないが、一人でいるのが好きだった。小さな場所に一人で座って、煙草を吸ったり、酒を飲んだりしていると気が休まる。自分自身とはいつも楽しくつきあうことができた。

いくつか好きな文章があるんですけど、と赤ペン先生に言いたい。この訳文、間違ってないですかね?

好きになっていく

ゴールデンウィーク最終日の日記を書く前にゴールデンウィークが終わってしまった。日常。たとえば「毎日が夏休みだったらなぁ」なんて話をすると、たいていは「そんなの数週間もしたら飽きてくるよ」みたいなことを言われるんだけど、飽きる?飽きないよね。一生かかっても読みきれない本、観きれない映画、知らない音楽、知らない国、知らないことが目白押しの世界は飽きない。ただ金がない。そうして、買ってもいない宝くじに思いをはせるのが、今のところの私の人生なのだ。

とはいえ、生きているといつのまにか狭量になっていく。知らないことには手を出さなくなる。個人的には音楽の分野について顕著で、いわゆる「最近のバンドはよう分からん」問題である。不倫騒動で話題になったバンド名をワイドショーで知ったとき、今こんなことになってんのかと度肝を抜かれた。

そんな状態で今年、一人で夏フェスへ行こうと計画している。ラジオで聴いて、久しぶりにいいなと思った若手バンドが出演するのと、一緒にフェスへ行っても気詰まりにならない友達ができるのを待っていたら、そのうち死んでしまうと思ったからだ。出演アーティストの半分以上、名前すら知らない。知らないまま、死んでしまうところだった。

数々のコンサートに足を運んでいる私の母は、好きだから行くこともあれば、友達に誘われたその日からそのアーティストの楽曲を日常的に聴いて、好きになって、行くこともある。SMAP、嵐、ゆず、小田和正加山雄三ファンキー・モンキー・ベイビーズ……。スピッツのコンサートチケットの一般販売に駆り出されたこともある(落選)。ちなみに、私が行こうとしている夏フェスへも行ったことがあり、アレキサンドロスがシャンペインだったときを知っている。私なんか、改名騒ぎがあったときに初めて知ったぞ。そのときのフェスTシャツは、母の夏用の寝間着だ。

そんなだから、これから好きになるのも遅くはない。一人夏フェスについてもまた報告します。


でもさー、やっぱり18、9のころから聴いてるthe band apartとかZAZEN BOYS(もしくは向井秀徳)の出演を期待してしまうのよね。

コーヒーとスコーン

ゴールデンウィーク4日目。今日はスコーンを焼き、ケメックスでコーヒーを淹れた。もう普段の土日と変わらないので、テンションがやや下がっている。

我が家の洒落た死蔵品ケメックス。私が持っているのは3杯用なんだけど、これで1杯分を淹れるのはなかなか難しい。ポットの注ぎ口から粉までの距離が遠くなってドリップしづらいのと、1杯分をやたら大きいサーバーに落とせば出来上がりの温度が下がりすぎる。基本的に一人だし(くそっ……)、自ずと出番が回ってこないのだ。

とはいえ、たまに練習しないと上手く淹れられないからな。今日は二杯分をドリップしてみた。

まずは普段使っているカップで二杯分の水をサーバーに入れ、マスキングテープで印をつけておく。このときお湯を使えばサーバーもカップも温まっていいだろう。私は面倒なのでしない。

フィルターはハリオV60と同じ円錐形。扇型の一枚紙を折って作る。ハリオより細い円錐だから、お湯が粉の間を通過する時間も比較的長く……まぁ、なんか違うんじゃね、多分。ドリップし終わったら、三角フラスコのごとく回し混ぜる。

久しぶりにしてはまぁまぁの出来か。コーヒーサーバーとしてはそんなに出番がないけれど、ピッチャーとかデキャンタとして使えるかも。

スコーンは、若山曜子の『バターで作る/オイルで作る スコーンとビスケットの本』から。カジュアルなレシピで大変気に入っている。ただ、ベーキングパウダーの量が少し多い気がするんよね。このあいだ作ったとき苦味が気になったから、今回はレシピの2/3のベーキングパウダーで作ってみたよ。

ふくらみ具合は許容範囲かなぁ。苦味も減ったように思う。試しに舐めてみたベーキングパウダーそのものの味は、苦味というより酸味が強い感じなんだけど、他に原因が考えられないし……。たとえば卵を使ったらもう少し減らすことができる、のか?要研究だな。

今週のお題ゴールデンウィーク2017」