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部屋と沈黙

本と生活の記録

愛すべきオカンムービー『海よりもまだ深く』

f:id:roomandsilence:20160525220426j:plain:right是枝裕和監督作品
軍手で作ったお人形やレース編みのドアノブカバーを愛すべきオカンアートと呼ぶならば、本作は愛すべきオカンムービーである。カルピスをコップに凍らせて超テキトーなアイスにしたり、インスタントコーヒーの中蓋をはがさずに少しだけ穴をあけてそそいでみたり、なんか風呂が汚かったり、賞味期限がいつなのかよう分からんものを食べさせようとしたり。私の場合はオカンというより、母方の祖母を思い出した。うちの祖母の家にも、通販で買った多機能ラジオみたいな謎の便利グッズがたくさんある。そうやって、「なんなんよ、もー!」とか「なにこれー!」とか言いながら、ふとしたときに思いだして、ほんの少しだけ泣きたくなるような、胸がしめつけられるような気分におそわれるのだ。あれは一体何なんだろう?懐かしさとも少しちがう。もしかしたらそこに、海よりも深い何かがあるのかもしれない。



良多(阿部寛)と淑子(樹木希林)のかけあいに思わず笑ってしまうこともしばしば。日常のとらえ方が本当にうまい。それこそ、クラシックの会での分譲組と賃貸組の席順とか、そこの先生の家にいる訳ありそうな娘さんとか。直接は語られなくても、思い通りにならない人生がいたるところにある。

ままならないままに生きていくしかないときもあるからこその、あのラストだろう。良多はこれからもギャンブルに手を出すだろうし、いくつになっても頼りなさそうだけど、あのときに手放さないと決断したことが、きっと何かを変えていくはずだ。