部屋と沈黙

本と生活の記録

本を切符にして

ブランケット・シティは毛布をかぶった小さな街。主な交通手段は街の中心を走る環状鉄道〈ブランケット・ドミノ・ライン〉です。〈デイリー・ブランケット〉紙に連載中のコラム『ブランケット・ブルームの星型乗車券』をたよりに街を歩けば、一般的なガイドブックとはひと味違った旅になるはず。街の祭日である〈毛布を干す日〉には、家々の軒先に色とりどりのブランケットが干され、訪れた人々の目を楽しませますーー。

ブランケット・シティに住みたい。

吉田篤弘『ブランケット・ブルームの星型乗車券』を読み終わってからも、この気持ちは大きくなるばかりだ。
〈ブランケット・ドミノ・ライン〉を乗り継ぎ、街頭芝居の『DOORS』を観て、本好きのための酒屋〈グラスと本〉でお酒と小説を買う。ロビーだけがのこされたホテル〈バビロン〉で待ち合わせ、毎週日曜日に旧市街で開かれるガラクタ市へ。街の〈発券所〉で「走ってもいない列車の乗車券」や「上演されるあてもない芝居の座席指定券」のような、「意味のない」あるいは「純粋な」美しいチケットを買ってもいい。このチケットに書かれていることは、もしかしたらありえるかもしれない、ありえたかもしれない未来なのだから。

『ブランケット・ブルームの星型乗車券』が、私のブランケット・シティ行きのチケットになる。

今週のお題「行ってみたい場所」

アナログクオーツと熊と雨

雨のなか、ペトロールズのライブへ行って、帰ってくる。感想は後日!

このあいだのフリーマーケットではSEIKOの腕時計と熊のピンズを買う。

時計本体と比べ、ベルト同士を留める金具のキズが少なく、新しい。おそらくきちんと手入れがなされ、長く使われ続けてきたからだろう。電池が切れたら交換し、ベルトがくたびれたら付け替えて、今もなお動いている。もしかしたら、前の持ち主のお気に入りだったのかもしれない。文字盤のグラデーションが素敵だ。

熊コレクションの一部。ロシアの陶製フィギュアから、100円ショップの木製ボタンまで。可愛い熊を見るとつい買ってしまう。

教育なんてものは

むかし、全然知らない人が全然知らない人のために買ってきたお弁当をもらったことがある。「ひとつ食べる?」と、職場の先輩から差し出されたのは、包装紙に包まれた二折の紙箱だった。

「どうしたんですか、これ」
「事務所の隣に来た人が、食べきれないから持って帰ってって」
「……ん?」
「隣の人、留守だったみたい。で、こんなに食べられないからあげるって、もらって」
「ん?えっ、それ全然知らない人じゃないですか」
「そう(笑)」

念のために言っておくが、知らない人について行ってはいけないし、知らない人からもらったものを食べてはいけない。「どくいり きけん たべたら しぬで」である。
とはいえ、ここで私が下手に拒絶すれば先輩が困ってしまうし、なにより、気軽に「捨てたらどうですか」とは言えないほど、その紙箱は重かった。

「包まれてるから大丈夫じゃない?」と呑気な先輩に「明日出勤してなかったら電話してくださいよ〜」と半分本気で言い、紙箱ひとつを手に家へ帰る。
ラベルには駅前のお寿司屋さんの名前。食べるにしても食べないにしても、まずは様子を確認しよう。不審な穴や、一度開けたような痕跡がないか、慎重に包みを解いていく。短めの割り箸、お手ふき、パックされたガリ。どうしたって美味しそうな稲荷寿司と巻き寿司にしか見えない。そして、一度見てしまったらもう食べるしかない。なにしろお腹が空いているのだ。

有難いことに、このとおり今も生きている。ついでに言うと、ものすごく美味しかった。ただ、念のためにもう一度言っておくが、知らない人について行ってはいけないし……

今週のお題「お弁当」