部屋と沈黙

本と生活の記録

書くことについて書くこと

書くことについて書こうとすると、どうしても感傷的になってしまう。
私は忘れてしまうことを恐れている。

記憶こそがわれわれの生を作っていることに気づくには、ごくわずかでも記憶を失いはじめる必要がある。記憶のない生は、まったく生とはいえない。それは、表現の可能性を持たない知性が真に知性とはいえないのと同じだ。記憶は、われわれの一貫性を保つものであり、理性であり、感情であり、さらには行動でさえある。記憶がなければ、われわれは何者でもない。
ルイス・ブニュエル『わが最後のため息』より

忘れてしまうことで、何もかもなくなってしまうことを恐れている。私は確かにいたし、見ていた、取るに足らない私にも名前があった、それを肯定するために書く。書くことで、私は私を見ている。

目を開けて、その目が永遠に閉じてしまう前に、できるかぎりのものを見ておくんだ。
アンソニー・ドーア『すべての見えない光』より

そういうふうに、自分自身をなんとか肯定することで、私と似たような人たちのことも肯定できないかと思う。何か、特別で素敵なことが起こらないかと、地味に、真面目に、ものぐさに、毎日を過ごしている人。

顔も名前も知らない、きっとこの先会うこともない、私と似たような人たちのことを思う。自分が何者でもない空白だと寂しく思わないように。

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

すべての見えない光 (新潮クレスト・ブックス)

この際だから予言しておくが、ドーアの『すべての見えない光』は映画化される。予言なんて言ったもん勝ちなんだから、誰だって予言者になれる。

今週のお題「私がブログを書きたくなるとき」

山あいの音楽フェス〈暮らしと音楽〉感想

2017.10.28 sat.
鳳鳴地域交流センター

美祢の山あいにある廃校で開かれた音楽フェス〈暮らしと音楽〉へ行ってきた。ペトロールズの『Renaissance』をBGMに車を走らせる。雨。立ち込める霧を抜けて山を越える。

古い木造平屋建ての校舎には暮らしのお店と教室ステージが設けられ、渡り廊下でつながった体育館ステージと行き来できる。地域の人たちが出店しているブースはまさに「父兄の皆さん」といった趣で、手づくりの文化祭みたいに感じがいい。
一日を音楽と山と雨の中で過ごす。


水の抜かれたプール

sonoda caffeのブースでコーヒーを一杯。タイミングよく、ネルドリップの全工程を見ることができた。このあいだも似たようなことを書いたけれど、コーヒーの匂いとドリップの工程を眺めているだけで気持ちがしんとする。自宅用に豆も購入。ぼーっとしすぎて、お釣りをもらい忘れそうになる。


自宅にて

Bar新世界のベーコンエピにはベーコンがしっかり入っているし(世の中にはベーコンの少ないベーコンエピが多すぎる)、8TRACKSの小さい岩のようなスイートポテトは外側がかりかりで美味しい。添えられたホイップクリームとメープルシロップ(たぶん)がいいアクセントになっていて、これは自宅でも真似できそうだ。

アコースティックライブ中心の教室ステージでは、皆が車座になって聴く。オガサワラヒロユキさんをはじめ、私の知らないところで、こんなにも素敵な音楽が鳴らされていたのかと思う。ボギーさんの「モンドくん(中2)との共稼ぎ」発言には笑ってしまった。

体育館ステージのsusquatch、LOSTAGE、elephantーーなかでもインストバンドのcetowがよかった。音楽に限らず、自分たちがいいと思うものを偽りなく続けていくのは、本当にかっこいいことだと思う。

帰りの車の中でcetowの『Normal Temperature』を聴く。衝動的で骨太なライブも、しゅっとまとめたCD音源も、どちらもすごくいい。

それにしても、美祢の山は寒かった。念のために用意しておいたウールのコートを羽織って一人冬の中にいた。

今週のお題「休日の過ごし方」

考えない

コーヒーを自分でドリップするようになって数年、今さらながら、深煎りよりも中煎り〜浅煎りあたりが好きなことに気がついた。元々酸っぱいものが苦手で、コーヒーの酸味、すなわち浅煎り、中煎りのコーヒー豆をなんとなく避けてきたのだが、「古くなったコーヒーの酸味」と「コーヒーの酸味」は違う。当然だ。

とはいえ、コーヒーの味がむちゃくちゃ好きかといわれると、そうでもない。……いや、もちろん好きなんだけど、味よりも香り、香りよりもコーヒーを淹れる工程そのものが好きだといえる。計量する、豆を挽く、フィルターを折る、ドリップする。一定の型があり技術を伴うようなもの、もしかしたら拳銃の組立・解体(映画でよく見るやつ)なんかにハマってしまうことだってあったのかもしれない。

おそらく、何も考えないでいることに居心地の良さを感じているのだろう。考えようとしない奴は馬鹿だと思っていたこともあったけれど、「考えないこと」は「考えること」と同じくらい大事だ。今になって、ようやく気づく。

コーヒーは楽しい!

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今週のお題「私の癒やし」