部屋と沈黙

本と生活の記録

教育なんてものは

むかし、全然知らない人が全然知らない人のために買ってきたお弁当をもらったことがある。「ひとつ食べる?」と、職場の先輩から差し出されたのは、包装紙に包まれた二折の紙箱だった。

「どうしたんですか、これ」
「事務所の隣に来た人が、食べきれないから持って帰ってって」
「……ん?」
「隣の人、留守だったみたい。で、こんなに食べられないからあげるって、もらって」
「ん?えっ、それ全然知らない人じゃないですか」
「そう(笑)」

念のために言っておくが、知らない人について行ってはいけないし、知らない人からもらったものを食べてはいけない。「どくいり きけん たべたら しぬで」である。
とはいえ、ここで私が下手に拒絶すれば先輩が困ってしまうし、なにより、気軽に「捨てたらどうですか」とは言えないほど、その紙箱は重かった。

「包まれてるから大丈夫じゃない?」と呑気な先輩に「明日出勤してなかったら電話してくださいよ〜」と半分本気で言い、紙箱ひとつを手に家へ帰る。
ラベルには駅前のお寿司屋さんの名前。食べるにしても食べないにしても、まずは様子を確認しよう。不審な穴や、一度開けたような痕跡がないか、慎重に包みを解いていく。短めの割り箸、お手ふき、パックされたガリ。どうしたって美味しそうな稲荷寿司と巻き寿司にしか見えない。そして、一度見てしまったらもう食べるしかない。なにしろお腹が空いているのだ。

有難いことに、このとおり今も生きている。ついでに言うと、ものすごく美味しかった。ただ、念のためにもう一度言っておくが、知らない人について行ってはいけないし……

今週のお題「お弁当」

カレンダー

セリアで来年のカレンダーを買う。

正方形のシンプルな壁掛けカレンダー。今も使っている同じシリーズのものをリピート購入した(2018年は休日がグリーンで印字されたものもある)。

冷蔵庫の側面に掛けて使用。書きやすく、水性ペンのインクもにじまない。
スケジュール帳にこだわった時期もあったけれど、職場には専用のスケジュール管理ソフトがあるし、プライベートでは暇人なので、100円ショップのカレンダーとスマートフォンだけで十分なことに気づいてしまった。

とはいえ、ポケットに小さいノートを持ち歩き、「パイ饅頭は焼いて食べるべし」とか「早朝の言い争い」とか「おじいちゃんの滑舌異国感」みたいな、カレンダーやスケジュール管理ソフトからも漏れてしまいそうなことを、日付と一緒に書いておく。そういうことはできるだけ忘れたくないと思う。


陶器市と猫

寄り道したイオンで陶器市が開催されており、予定外の出費。木製の汁椀と益子焼のカップ&ソーサー、信楽焼のプレートを色違いで2枚購入した。とはいえ、ほとんどが2割引から半額の品だから、全部で4000円いかないくらい。満足して帰る。

録画していたNHK Eテレの「ネコメンタリー」を観る。高層(高級)マンションに、猫の金ちゃん、銀ちゃんと暮らす作家、吉田修一49歳、独身。イームズのラウンジチェア、フランク・ロイド・ライトのテーブルランプ“タリアセン1”が配された3LDKくらいの部屋に書斎は見あたらず、ダイニングテーブルやソファに腰掛け、原稿に手を入れていく。傍らには猫2匹。
格好良すぎて目眩がする。仕事(創作)で成功し、お金があって、それをきちんと使い、そこはかとない色気を漂わせ、容姿も申し分ない。まじですんごい様になってる。
うちなんか概ねニトリダイソーだぜ〜と思いながら、いくら安物でも「とりあえず」の間に合わせで買うことはないし、物に対するこだわりは強い方なので、吉田修一宅の行き届いたインテリアに居心地の良さを感じた。今よりももっとお金がなかった学生の頃は「とりあえず」で間に合わせた物が部屋にたくさんあったから、なんというか、いつも気持ちが散らかっていたように思う。

ネコメンタリー 猫も、杓子も。吉田修一編は10月8日(日)18:30から再放送される。気になる方はぜひ。