部屋と沈黙

本と生活の記録

the band apart “November e.p.” 感想

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Spin the Light
今年の8月から11月にかけて発売された4枚のe.p.のなかで、いちばん好き。正直なところ、前作の“pool e.p.”で発表された“夢の中だけで”は個人的にあまりピンとこず、川崎さんの曲にはそこまで期待してなかったのよ(まじでごめんね!)。それが、良い意味で裏切られた。

「基本はギターネタを作っていろいろストックしといて曲にする」という川崎さんのインタビューを読んで、あれ、なんとなく、もしかして……とググってみると、案の定、向井秀徳もギターのリフから発展させていくようなパターンが多いと答えていた。

メロじゃなくてリフ。私は向井秀徳ZAZEN BOYSも大好きなんだけど、向井さんもやっぱり、メロじゃなくてリフなんだ。

ということはよ、ソングライティングには、メロディ先行型とリフ先行型があるってこと?メロに付け加えるようにして作り込まれた曲と、リフからひろがっていく曲。美しく仕立てた箱の中にしまう方法と、箱に切り込みを入れて展開させる方法。

私は作曲なんてしたことがないから、ものすごく見当違いなことを言っているのかもしれない。でももし、文章で同じことをするなら、私は箱を開きたい。仕組みが知りたい。開いて、どういう面で構成されているかを検分し、にやにやしながら元に戻したつもりが、あれ、なんか最初とはかたちが違うんじゃね……?みたいな文章を書きたい。そういうのが好きだ。

テンションは上げた方が分かりやすい。クラシックでもあるじゃん、トランペットがパッパー!みたいな、起承転結!みたいなさ、極限までプロットが練られたハリウッド映画、スペクタクル!みたいなさ。そういうのって、分かりやすくて気持ちがいいし、おもしろいのよ。美しい箱って美しいの、当然。

でも、この曲は少し違う。醒めたテンションを保ちながらそれらを統べていくような。もう陳腐な例えしかできないけど、青い炎だよ。炎としていちばん安定してて、いちばん熱い。なのに寒色系の青なんだよ。すごくない?めちゃめちゃかっこいいよ。ほんとに。


途中の物語
最初に聴いたときは笑っちゃったな。「ばりばりの“歌もの”じゃん、何これふつうに良い、バンアパってこういうのもできちゃうんだな、幅が広すぎる」って。これは推測だけど、“途中の物語”はメロディ先行型で、“Spin the Light”とは対極にある。それがこの“November e.p.”のおもしろいところで、the band apartのおもしろさだと思う。まじか、どっちもできちゃうんだ、かっこいいなっていう。

この曲、メロディも良いけど、川崎さんのギター(たぶん)も良いよね。良いメロから発展させた良いリフって感じがする。


おまけ
4枚連続e.p.の最後のパーソナルインタビューは、バンアパのギター兼レーベルの社長でもある川崎さん。川崎さんってモテるんだなぁ。個人的に、いちばんモテそうなのは木暮さんだと思ってた。ファン歴は長い方だとは思うものの“万年にわか”だから、川崎さんに関しては、まんなかでギターを弾いてる人だな、くらいの認識しかなかった。映像とかインタビューはフォローせず、ほとんど音楽だけで、特に好きなのは原さんのベースだったし。

でも確かに、去年初めてライブへ行き、ステージで一瞬笑顔になった川崎さんを目撃したあと物販で握手をしてもらって、もう秒で好きになっちゃったもんね。そらモテるよな。

メンバー4人中3人がピアノ経験者なのも意外だった。私もピアノをやらされてたから覚えがあるけど、ピアノの先生って厳しいのよ……。間違えると手をつねられて、青あざになったこともあるし。怖くて、とうとう我慢出来ずに母親にぽろっとこぼしたら、思いのほか心配されて、小4か小5くらいのころに先生を代えてもらった記憶がある。

ピアノの先生が厳しいのは、ピアノって、間違えたことがすぐに分かるからだと思うな。ピアノを習ったことがない人でも、音の調和が崩れたってことにはすぐに気がつくと思う。完璧に弾くのが大前提で、間違えるのは論外なんよ。私は練習が嫌いだったから、だめだったな……。ものになんなかった。それでも中3までは惰性で続けたおかげで、音感とリズム感だけはなんとなくあるから、それは良かったな、と思う。

ちなみに今回のインタビュアーも鹿野さん。原さんのときとは違って読みやすく、良いインタビューだった。もしかしたら、その場をコントロールしてたのは川崎さんのほうだったのかもしれない。

過度な身内感覚が話を分かりにくくする。鹿野さんと原さんは仲が良いんだろうけど、仲が良いがゆえの共通認識のもとで、言葉はどんどん簡略化されていく。何かを伝えたいと思ったとき、距離感は大事だ。写真を撮るときでも、近寄りすぎると何が写ってんのか分かんなくなるでしょ。クイズじゃないんだからさ*1

分かる人には分かってほしいから、分かりやすく書きたい。簡略化したり、逆に難しく書いたりして、分かる人だけが分かればいいっていうのとは違う。それは、私が思う誠実とは違うから。


おまけ2
もう嫌、どんどん長くなる。August、September、October、November、とにかく4枚全部書けた。次はアルバムだけど、アルバムの感想は無理だと思う。気が向いたら書く。


November e.p.

November e.p.

  • アーティスト:the band apart
  • 発売日: 2020/11/27
  • メディア: CD

*1:そういうクイズあるよね。

バンドTシャツでかい問題

「バンドTシャツでかい問題」について考えていたら、髭の『ZOIQ-ZOZQ』限定セットが完売していた……。ライブアルバムと、Tシャツと、今年の9/10に配信されたライブ映像のダウンロード権がセットになったもので、以前このブログにも書いた9/10の配信ライブがもうめちゃめちゃ良かったから、新しいアルバムと一緒に買おうかなぁと思っていたのに。

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考えすぎてタイミングを失う……。私の悪い癖だよ、ほんと。でもさ、やっぱり、どうしても、バンドTシャツって大きすぎる。そもそも既製服って、そのサイズのイメージよりも概ね大きい。だから通販は極力使わないように、ユニクロとかGUみたいなファストファッションでも必ず試着をして、着たときのシルエットとか、バランスとか、顔映りを見てから、買うかどうかを決める。そのなかでも、サイズ感って結構重要なポイントだと思うんよね。

もちろん、バンドを応援したくてサイズの合わないTシャツを買うこともままある。ただ、私はわりと洋服が好きだから、買ったのにあんまり着ない洋服の存在をすこし悲しいと思ってしまう。

去年、バンアパのライブへ行ったときに買ったSサイズの囲碁盤Tシャツ*1も、メンズのSだからやっぱり大きいし*2、バックプリントのグラフィックがあんまり好きじゃなくて*3、ほとんど着ずにしまい込んでいる。でも、買ったからには着ないと悲しいから、ジムに着て行くか、夏用の寝間着にするしかないんだけど、なんとなく生地がざらついていて、1枚で着るとちくちくするから寝られない。

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分かってる、小さい人は大きいサイズのTシャツを着られても、大きい人は小さいサイズのTシャツを着られない。物理的に。大は小を兼ねる。バンドTシャツが大きいのも、あらゆる既製服が大きめなのも、物理的に着られなかったら売れないからだ。細やかなサイズ展開はコストがかかる。アパレルメーカーでもないアーティストにそこまで求めるのは酷だし、なにより好きな人には元気いっぱい儲けてほしいから、わざわざSSサイズを作ってほしいとは思わない。

とはいえ、せめてS!ついでに、グラフィックがかっこよくてちくちくしないならほんと最高。わがままでごめんね!

とりあえず、新しいアルバムのみ購入。楽しみ。……あーでもやっぱりMでもいいから再販されないかなぁ。9/10のライブ、ほんとに良かったんだよ。いつか必ずライブハウスで観たいと思ったもん。

それと、12/3のライブは配信もあるから、すごく楽しみにしてる。

*1:私のなかでの通称名

*2:肩が合わない

*3:フォントと全体のバランスがいまいち

the band apart “October e.p.” 感想

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“Time waits for no one”
8月、9月と聴いてきて、10月の“Time waits for no one”がいちばん「バンアパっぽい」雰囲気なんだけど、よく聴くと“すこし不思議”。

とくに不思議だったのは、“むかし愛した/女は全て”から始まるひとかたまり(Bメロっていうのかな?)。あそこ、音程が取りづらくなかった?2、3回聴かないと、音がどういうふうに移動していくのかがよく分かんなかった。

たぶん誰もが“気持ちの良い音の幅”の感覚を持ってると思うのね。クラシックは比較的分かりやすくて、こう、和音で調和する感じ?気持ちの良い音の幅が、ある程度決まっているというか……。

あるいは、沖縄の琉球音階とか祭囃子とか『世にも奇妙な物語』のエンディングテーマ曲とか。型というか、調子というか、そういう一種の“あるある”が通用しない音の連なりはおもしろい。

“電気の羊”、“0か1”、“月の砂漠”っていう歌詞の感じもSFっぽくて、そういえば、アニメ『21エモン』のエンディングテーマ曲“21世期の恋人”の、“21世期の恋人は/あなたで決まり”っていうフレーズも、私にとっては不思議な音の連なりだったことを思い出した。

すごく可愛くてめちゃめちゃ良い歌なので、気になる方はぜひ検索してほしい。ついでに『21エモン』はアニメも漫画もおもしろい。SFって、“すこし不思議”って、おもしろい。

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サビあたりの川崎さんのギター(たぶん)も好きにうたってて良い。もしかしたらボーカルのメロディよりうたってるんじゃないか。最近よく聴いている3rdにも、川崎さんのギター(たぶん)がうたう、良い曲が多い*1。……さっきから(たぶん)(たぶん)言ってるのは、恥ずかしながら荒井さんのギターと区別がつかなくて、もしかしたら荒井さんパートかもしれないから(恥)!ごめんね!

とにかく、バンアパの良いところは、荒井さんの歌以外にも川崎さんのギターがうたうし、原さんのベースがうたうしで、部分もうたうし、全体もうたうところだと思う。



“kirigaharetara”
音楽は好きだけれど、BGMは少し苦手だ。バックグラウンドミュージック。うちの事務所では、JポップヒッツのオルゴールアレンジがBGMになってるんだけど、これがもう最悪で、本当に嫌。

音楽って、その良し悪しに関わらず、音の移動に意思があるでしょ。話し声と同じく、意思がある音を聞き流すのは難しい。どうしても気が散ってしまう。しかも、高音で響くオルゴールアレンジだよ……!働き始めたころは、家に帰ってもそのオルゴールの高音が耳に残って地獄だった。今はまぁ慣れたけれど、嫌いなことに変わりないから、勝手に音量下げるもんね。

私にとって、音楽は背景で鳴るものじゃない。気が散らない音楽なんて意味が分からない。そんな音楽ってある?良い感じに気が散るか、嫌な感じに気が散るか、とにかく気が散るかのどれかだと思う。

とあるグランピング施設のBGMとして作られた“kirigaharetara”だって、例外なく気が散る。とても良い感じに気が散っている。


おまけ
今回のパーソナルインタビューは原さん。読みながら、私とは真逆の身内感覚を持っている人なのかなぁと思った。

私にとっては「自分以外はすべて他人」で、家族も例外なく他者なのね。私とは違う、ひとりきりの、別の存在だから大切にしたいと思う。逆に原さんは、まず身内に引き入れて大切にする、というか。「仲間」とか、バンド活動のことを「“族”の旗を振る」って言い表しているのを聞くと、そうなのかなと思う。

私はそういう所属の感覚が薄い。このあいだ書いた「一般女性」問題とかもそうで、何かに含まれている感覚がほとんどない。おそらく“ひとりきり”の感覚が強すぎるんだろうと思う。ひとりひとりがひとりきりのまま、同じ場所、同じ時間にいる。私の身内は狭い。だからこそ、身内に入っちゃうとやばいんだけど。

原さんみたいに身内が広ければ、きっと友だちも多かったんだろうなぁ。私の妹も身内が広いタイプで、友だちがめちゃくちゃ多いもん。風通しが良くて、優しい。

それにしても、鹿野淳のインタビューって相変わらず読みにくいな。いちばん最初に鹿野さんのインタビュー記事を読んだのは私が中高生くらいのときで、そのころは私もまだまだピュアだったから、よく分かんないのは私の読解力が足りないせいだと思っていたけれど、20年も経って未だに読みにくいのなら、もう合わないだけなんだろうな。

ちなみに、私がいちばん好きなインタビューは、バンアパのオフィシャルサイトで公開されている木暮さんが聞き手の“Memories to Go”リリース・インタビュー。好きな人が好きな人にインタビューしてたら、そりゃ好きに決まってるよね。しかも、結局、原さんへのインタビューがないのもバンアパっぽいなと思う。

*1:“Stanley”、“stereo”も好き。決めかねる……。