部屋と沈黙

本と生活の記録

言葉はアニーとクララベル

2020.6.21 Sun.
fanistream

フルカワユタカと荒井岳史(the band apart)のアコースティックライブ配信を観る。

なんかもう、びっくりしすぎて何も言うことがない。「かっこいい」のかたまりしか覚えていない。

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語彙が失われている。言葉だけが私の手がかりで、アイデンティティの入れ物なのに、それが失われてしまった。そもそも、この気持ちにふさわしい言葉さえ持っていないのかもしれない。私の言葉では足りない。

そんなの、いつもなら悲しくて仕方がないはずなのに、なんでこんなにも嬉しいのか。私の言葉なんか絶対に敵わない、太刀打ちできないと思うことが、嬉しくてたまらない。

フルカワユタカなんて、ライブ配信当日の昼、ひたすら「ズボンのチャックが全開だった」と繰り返し呟いて呪いをかけるような人なのに、ライブになれば一瞬でその呪いを解いてしまう。

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しかも、アコースティックで“SEE YOU”やってなかった?開演前に“SEE YOU”が流れてて、「ほんとかっこいいなぁ!」と思ったのは覚えてるんだけど、そのあとのことは、それを上回るかっこよさに圧倒されて、あんまり覚えていない。大きすぎる感情に支配されると、記憶が追いつかないんだな……。トラウマのメカニズムってこんな感じなんだろうか。感情のかたまりだけが残る、みたいな。

あるいは、私の呪いを解いたのは荒井さんかもしれない。まずは荒井さんだった。18、9の頃からthe band apartの“にわか”ファンを続けてきたはずなのに、荒井さんがこんなにもかっこよかったなんて知らなかった。私は17年間、何を見てきたのか。原さんか?

私の言葉ではもうどうしようもないので、とりあえず「かっこいい」の類語をリンクしておく。「フルカワユタカのチャックを見守る会」は解散。各自、リンク先から好きな「かっこいい」を選んで、彼らのかっこよさを言葉で囲んでくれ。

……なんだこの感想にもならない感想は。ほとんど何も言っていない。語彙が赤ちゃんだもん。「すごくかっこよくて、本当にびっくりしました」ってことしか書いてない。なんか、可愛い犬とか子どもとか洋服を見たときに「えっ!?可愛い!」っていう感覚に似てる。そういうのって瞬間的に“分かる”。言葉より先にある。

ああ、そうか、言葉って「遅い」のか。考えてみれば当たり前なのに、今になって初めて気づく。良いとか悪いとかじゃなくて、ただ事実として「遅い」。いちばん大切なのは、言葉じゃなくて、言葉を引っ張っていくものなんだ。

私はずっと、言葉こそ「きかんしゃトーマス」だと思い込んで、いかに走らせるかを考え続けてきたけれど、言葉は「アニーとクララベル」だった。こんな単純なことに、なんで今まで気がつかなかったのか。物語とか、音楽とか、私に驚きを与えてくれる全てのものが、「アニーとクララベル」を引っ張っていく。「きかんしゃトーマス」にしかできない仕事があるように、「アニーとクララベル」にしかできない仕事がある。

赤ちゃんみたいに、ずっとびっくりしていたい。今度こそ「アニーとクララベル」を走らせるために。