部屋と沈黙

本と生活の記録

「ハマスホイとデンマーク絵画」展 感想

そちらから見えるこちらは遠くに見えますか。

私にとっての「近く」が誰かにとっての「遠く」ならば、私はもう遠くにいるのかもしれない。だとすれば、近くを書くことは、遠くを書くことと同じ。

木曜日に有休を取って、県立美術館で開催されている「ハマスホイとデンマーク絵画」展へ行ってきた。美術館が県外からの来館自粛を求めるなか、こんなに素晴らしい展覧会を地元で観ることができたなんて、山口県民で良かったと久しぶりに思う。10代の頃はこの町から出て行くため、打算的に進学校へ進み、違う街で10年を暮らし、30になる手前で戻ってきた。「山とガソリンスタンドとイオンの町」。このブログを始めたのもその頃だ。

2020.5.28 Thu.
山口県立美術館

本展では、感染症対策として整理券が配布され、一度に入場できる人数に制限が設けられている。平日の木曜日、9時半に到着し、並ぶことなく10時スタートの整理券をもらえた。検温や待ち時間を経て、10時半から作品を観ることができる。


入館前の検温では、非接触式の体温計で痛くもないのに緊張し、顔をしかめてしまったせいか、スタッフの方に「ごめんなさいね」と言われてしまった。注射される前の子どもじゃないんだから……恥ずかしかったな。ともあれ、検温を無事突破し、整理券と一緒に配布された問診票&連絡先記入用紙を提出する。

入館証には安全ピンのほかにクリップも付いているから、洋服に穴を開けなくてすむ。私は緑のグループ。美術館正面のガラス窓に張られた過去の展覧会ポスターを眺めて待つ。

入館後の待ち時間には、観覧の際の注意事項(主にソーシャルディスタンスについて)と、本展を企画された学芸員さんのミニレクチャーがある。

ブログのタイトルに「部屋と沈黙」なんてつけるくらいだから、ハマスホイの室内画を好きになるのも当然のことのように思えた。「部屋」が好きで、「沈黙」が好きで、モノとモノとの結び目になる接続語「と」が好きで、つけた名前だ。本を読むときはいつも部屋と沈黙が一緒だったから、それらは私にとって、とても親密なものだった。

私の内面が凪いでいようが時化ていようが、部屋と沈黙はただ無言で私を包む。これとは別に、本や絵画や音楽は、私の内面に直接触れるものだ。だからこそ、ハマスホイの室内画を観ていると、直接触れながら包む、みたいな拡張されていく感じがある。ぐっと入ってひろがる、みたいな。うーん、うまく言えないけど……。ほんと、なんてことないように見える風景画にも、そういう「何か」があるんだよ。もっとちゃんと説明できたらいいのにな。とにかく、私はすごく好きだった。

「私はかねてより、古い部屋には、たとえそこに誰もいなかったとしても、独特の美しさがあると思っています。あるいは、まさに誰もいないときこそ、それは美しいのかもしれません」
1907年、ヴィルヘルム・ハマスホイ

ポストカードは事前にオンラインショップで購入していたから、併設のミュージアムショップでは図録とポスターとチョコレートケーキを買った。



時間制限付きの観覧だったけれど、比較的ゆっくり観るタイプの私でも満足できた。会期は6/7(日)まで。やっぱり、実物のライブ感は他の何ものにも替えがたい。音楽も舞台もそう。幸運な山口県民の方はぜひ。


今週のお題「遠くへ行きたい」