部屋と沈黙

本と生活の記録

選べばいい

金曜ロードショーで観た『プラダを着た悪魔』をDVDで観直す。私はこの映画で“That’s all.”を覚えた。

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やはりカットされたシーンが多かったみたい。テレビ放映のために編集されたバージョンでは、ナイジェルの良さが伝わってこないもの。家族には「サッカー部」と偽って裁縫部に入り、夜は毛布に隠れて“RUNWAY”を読んだナイジェル。

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率直なのに親切で有能、ユーモアもある。私自身は、どちらかというと移り気で打算的(良く言えば現実的)なところがあるから、ナイジェルのような人に憧れる。真っ直ぐ、ひたむきに、自分の夢を実現させた人たち。

何を隠そう、私が今の仕事を選んだのは「使えそう」だったからだ。ある作家の言葉を借りるなら“専門的使い走り”の事務職で、「堅そう」とか「賢そう」な印象もある。転職した当時、私には大した職歴なんてなかったけれど、事務所のボスと同じ進学校出身だったのが幸いしたのだろう。たとえば独り身の気楽さで、どこか遠くの別の場所で暮らしたくなったとき、この仕事で得た知識やイメージが役に立つかもしれない。

そうやって打算的に選んだこの仕事を、今ではそれなりに気に入っている。電話対応やアポイントの調整、書面チェックのようなザ・事務員的業務のほかに、依頼者と打ち合わせ、調査し、根拠を示して検討し、書面に起こすような業務もある。私は頭を使うのが好きだ。もし何かのきっかけで今の事務所を辞めることになっても、また同じ仕事に就きたいと思う。

私は“好き”を仕事にしたわけじゃない。ハローワークで見たリストのなかから「使えそう」な仕事を選んだだけだ。いつだって一刻も早く家に帰りたい。土日は休みたい。夢もロマンもない。でも私はこの仕事で、私自身が好きだと思えることをしている。単なる“家賃稼ぎの仕事”だとは思っていない。

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人生のなかで、より多くの時間を割く仕事がつまらないのはもったいない。もちろん“家賃稼ぎの仕事”があったっていいけれど、その仕事に「自分が知らなかった価値」や「自分が知らなかった好き」を見出すことができれば、きっともっと良くなる。よく知りもせず、馬鹿にしていい仕事なんてない。もし馬鹿にするのなら、知ってから馬鹿にするべきだ。

そしてアンドレアも“知った”。「自分が知らなかった価値」を見出した上で、彼女は最後に“選んだ”のだ。自分で。よく知れば、馬鹿にすることなんてできない。いちばん大切なのは、自分自身で考えて、自分自身で選び取ること。

……なんだか教訓じみたことを書いちゃったな。教訓なんて好きじゃないのに。みんな勝手にすればいいと思う。自分で見て、自分でやって、どろどろになって考えて、自分勝手に選べばいい。私がいちばん恐れているのは、考えるのをやめてしまうことだ。考えるのをやめてしまえば、選ぶことなんてできない。

ファッション誌が舞台だから、お洋服も素敵。オープニングに出てくる可愛い女の子たちが、素敵なお洋服を自分で選び、自分のために着ているところが好き。ミランダの初登場シーンも良いよね。横暴で抜け目なく、悪魔のように非情でも、プロフェッショナルであるという点においては、本当にかっこいいと思う。

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このシーンも大好き。笑っちゃう。そりゃあスリムなほうが綺麗に着こなせて楽しいんだけど、洋服のサイズだけで決まる美しさなんてさみしいよ。こぼれ落ちるものが多すぎる。いろんなかたちの美しさがあっていいし、私はそれを見つけたい。それに、炭水化物であれなんであれ、美味しそうにもぐもぐ食べる人ってすごく良いよ。すごく好き。

プラダを着た悪魔 (字幕版)

プラダを着た悪魔 (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video