部屋と沈黙

本と生活の記録

33,333kmまで、あと

6時半過ぎに目が覚めて、今のうちにガソリンを入れておこうとフード付きのパーカーを頭からかぶり、水を1杯飲んで、車のキーと、財布と、“October e.p.”を持って家を出た。

うちの近所にある24時間営業のガソリンスタンドは、ここいら一帯ではいちばんの安値で、土日になるとさらに値下りする。だから、日中が動き出す時間帯はむちゃくちゃ混むのね。今から行けば待たずにすむし、早朝の田舎道は人も車も少なくて走りやすい。

カーナビにCDを吸い込ませ、片道5分もかからないガソリンスタンドへ向かう。晴れ。きのうの夜、ジムで泳いだ帰りに聴いた“Time waits for no one”よりも、今朝の“Time waits for no one”のほうがクリアに響いて、もう少し聴くために、市街地をぐるっと回ってから帰ることにした。音楽を聴くのが好きだし、車を運転するのが好きだ。

総走行距離33,333kmまであと100kmを切ったAT限定の軽自動車乗りが「車の運転が好き」なんて鼻で笑われそうだけど、自分で動かせる大きな機械があるっていうところが気に入っているのかもしれない。生きることなんて、そのほとんどがコントロール不能じゃん。自分自身でさえ上手く動かせない。いつまでもままならないまま、だからおもしろいんだけど、おもしろくって疲れるよ。

ハンドルを右に切れば右に曲がるし、左に切れば左に曲がる。それだけのことが、私を安心させ、落ち着かせる。とはいえ、とりたてて運転が上手いわけでもないから、初めての道とか雨の夜とかは、より集中して疲れちゃうんだけどね。都会じゃきっと運転できないだろうな。

自宅へ戻り、空白を開いて「the band apart “October e.p.” 感想」とタイトルを付け、思いつきを言葉でとめておく。まだ小さいパーツと中くらいのパーツしかないけれど、パーツさえあれば、いずれは組み立てられる。

観て、聴いて、書く。自分で始めたことなのに、なーんも思いつかんかったらどうしようって、いつも不安になるよ。袋に何も入ってなかったら?……いや違うな、袋に入っているものがまるで見えなかったとしたら?

きのうの「何も言わないのがいちばん純粋で、混じりっ気がない」をもう少し先に進めてみると、つまりインターネット上では、言葉が存在を証するんだなってところに行き着く。“言葉”は“写真”でもいい、とにかく何らかの言葉が証になって立つ。

だから、何も言わないことは、いないことと似ている。書けなくなることは、いなくなることと似ている。私は今も、いなくなることがこわいんだろう。見えなくなることがこわいんだろう。そして、こわいのと同じくらい、見えることが、ここにいることが、おもしろくてたまらないんだろう。