部屋と沈黙

本と生活の記録

道草を食う本棚

▶︎ https://yama.minato-yamaguchi.co.jp/e-yama/articles/34796

県内の書店が出版社を考慮しない「あいうえお順」で文庫本を陳列しているという。私はこの「出版社ごちゃ混ぜあいうえお順」がどうしても好きになれない。

私はかつてチェーン系の書店に3年、インディペンデント系の書店に4年勤務し「ジャンルもしくは出版社ごとのあいうえお順」と「ジャンルごとの文脈棚」の両方を経験した。後者の棚は、文脈に沿って、文芸書や文庫本の隣にコミックや絵本も並べられている。

「文脈棚」を説明する例えとしてもっとも分かりやすいのは海外文学かもしれない。つまり、同じ海外文学でもビート・ジェネレーション*1シュルレアリスム*2は違う棚、という感じ。

知らないと並べられない。しかも、ビート・ジェネレーションとシュルレアリスムみたいに分かりやすいものは少なく、ほぼ「雰囲気」としか言いようがなかった。私に「センスの9割は経験」と教えてくれた社長は、まず棚をよく見て勉強するように、と言った。なぜ、それらが隣り合っているのか。

本が好きな人にとっては自明のことだとは思うが、出版社にも文脈がある。文庫本でいうと、新潮は定番、岩波は重鎮、角川はエンタメ、講談社はミステリ、早川はSF、文春は……これといった印象無し!ただし、芥川賞直木賞といえば文藝春秋である。私好みの本を数多くラインナップしているのがちくま文庫講談社文芸文庫で、書店へ行ったときは必ず確認する。

これが「出版社ごちゃ混ぜあいうえお順」だと、出版社の持つ文脈すら失われてしまう。「あいうえお」さえ知っていれば並べられる、ということだ。本が好きである必要すらない。これでは倉庫と変わらない。もちろん「まじで倉庫を目指す!」百科事典的書店の場合は、分類としてそれもありだろう。とはいえ、すでに知っている作家を見つけるのは簡単でも、もしかしたら好きになるかもしれない作家を見つけるのは、とても難しいんじゃないか。

あるとき、どうも自分は本が好きなのではなくーーいや、もちろん本も好きなのですがーー本当に好きなのは本をおさめた本棚や本立ての方ではないかと気がついた。そこに本が並んでいるということ。一冊ではなく、二冊、三冊と背中を並べていること。その並びが、どんなふうに並んでいるのか、どの本とどの本が隣り合わせになっているのかーー。
クラフト・エヴィング商會『おかしな本棚』より

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日常的に本を読まない人にとっては「出版社ごちゃ混ぜあいうえお順」のほうがきっと便利なんだろう。時間は有限だ。でもちょっと寄り道して「金曜日の夜の本棚」や「波打ち際の本棚」を眺めてみれば、その道の先に、あなたの知らなかった素敵な場所や、おかしな街が広がっているのかもしれない。


おまけ

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ちなみにサイン本です!