部屋と沈黙

本と生活の記録

たとえば、

パジャマを買った。

10年くらい前に買ったユニクロのパジャマを着て寝ると、なんだかすごく汗をかく、ということに10年越しで気がついたのだ。原因はおそらくフリースだろう。ズボンは綿100%だから、同じ綿100%の長袖シャツを買って、上だけ入れ替えることにしよう。

f:id:roomandsilence:20220212010712j:plain:w400

無印良品フランネルブラウス、セールで990円。カフスにボタンがあるから家事のときにくるっとできる。たぶんこれはパジャマとして作られたものではないけれど、パジャマにぴったりだった。適度に厚みのある柔らかい生地で、ちくちくしない。

休みの日は1日中パジャマを着て過ごすこともある。今日もまたパジャマのまま、ベランダで洗濯物を干し、植木に水をやって、もうこれ以上は何もせんぞ、3連休なんだからと思う。

f:id:roomandsilence:20220212010335j:plain:w400

ポイントを集めてもらえるプレゼントに応募するため、郵便はがきに住所、氏名、年齢……を書こうと、自分の生まれ年に「年齢」を足してググる。記憶が曖昧だ。

とはいえこのまま耄碌し、たとえば自分のことを忘れても、私が書いた私の言葉が、私のことを覚えておいてくれるだろう。その言葉は他人のもののように思えるだろうか。そうなったら、私は私から抜け出せたと言えるのかもしれない。忘れてしまうことをひどく恐れているくせに、そうなったらちょっと、おもしろそうだと思う。

ソファに寝そべり、クッションとくたびれたくまのぬいぐるみを抱えて本を読む。ウールのブランケットがあたたかい。あるアメリカ小説の登場人物が何度も何度も「ロシアの小説を読む」と言うので、なんとなくチェーホフの「六号病棟」を思い出し、本棚にある文庫本を開いてみると「六号室」だった。訳違いかもしれない。おそらく図書館の本で「六号病棟」を読み、そのあと古本で見つけ買っておいたのが「六号室」だろう。そのまま「六号室」を読み始めた。

f:id:roomandsilence:20220212010347j:plain:w400

『われわれ二人のうち、どっちが気違いだろう?』
チェーホフ「六号室」より

あるいは“融通のきかぬがさつな良心”によって振われる暴力。「六号室」は、なんとなく私に加賀乙彦の「くさびら譚」を思い起こさせ、そのまま「くさびら譚」を読み始めた。こうなるともう食事をとるのも億劫になる。お腹を空かせて本を読み、お腹を空かせて文章を書き、お腹を空かせて昼寝をする。壁掛け時計の秒針の音が妙にうるさい。

「こんどはぼくがききたい。どうだな。キチガイになることはまじめなことかな」
「もちろんです。狂人は正常人のように自分をごまかしませんからね」
加賀乙彦「くさびら譚」より

私はパジャマからパジャマに着替える。アメリカ小説の登場人物はほったらかしにされたまま緑色の池を見下ろしている。