部屋と沈黙

本と生活の記録

コロナ禍によって暴かれたライブシーンにおけるモッシュ及びダイブの諸問題について

Twitterのトレンドで「モッシュ」を見かけ、あ〜そうだったと思い出す。長期にわたるコロナ禍で忘れかけていたのだが、一部のライブやフェスではモッシュやダイブが起こるのだ。これは、私が30代に入るまでほとんどライブへ行かなかった理由のひとつでもある。

まず「モッシュ」とは、感極まった観客が互いの身体をぶつけ合う行為で、「ダイブ」とは、感極まった観客なり演者が、ぎゅうぎゅうの観客の上に飛び込む行為である(Wikipediaその他より要約)。もちろんこれらは危険行為で、過去には死亡事故も発生しているらしい。そのため、大抵のライブやフェスで禁止されているはずなのだが、現状、なんとなく曖昧なまま、なし崩し的に容認されている。なお、ライブにおいて微動だにしない観客はその不動さから「地蔵」と呼ばれ、疎まれている。

お察しのとおり、私はほとんど「地蔵」だ。ちくちくした洋服のタグや下着の縫い目とすら触れ合いたくないのに、そこらへんの人間との身体的接触など嫌である。私の身体に触れていいのは、私が許した者だけだ。そもそも地蔵だぞ、地蔵。ありがてぇだろ!

このモッシュ及びダイブの問題は、問題として論じること自体が野暮とされている。あれこれ言うやつはダサい、面倒くさい、そういう雰囲気がある。実は、コロナ禍初期にもこの問題について書きかけたんだけど、やや攻撃的な文章になってしまったので公開せずにいた。今はもうコロナ禍も明けつつあるようだし、ギャグみたいな規制緩和ガイドラインもできたから、この際、載せておこうと思う。

ルールを破ることがかっこいい、みたいな空気で客のダイブを煽ってた演者がさ、このコロナ禍ではとってもお利口さんにルールを守っているんだなぁ!と思うと、彼らの言う“かっこよさ”って一体なんだったんだろうと思う。ルールを破らず、従属するからダサいんじゃない。言ってることとやってることに一貫性がないからダサいんじゃん。それに気づいてんのかなって。

「それとこれとは話が別」なのだろうか?でも、どこがどう違うのか、クソ真面目な私にはよく分からない。モッシュやダイブで傷つくかもしれない命と、ウイルスで傷つくかもしれない命の違い。私には、どちらの命も同じくらい大事に思える。

そのへんのことを“界隈”の人々がどう考えているのか、煽りじゃなく、純粋な興味として知りたい。快、不快を差し引けば、自分と異なる意見はおもしろいから。

なかには、モッシュする人が前で、しない人が後ろ、と指定する演者もいるらしい。なんで「する人」が「前」で「しない人」が「後ろ」なのか。たまには、しない人が前で、する人が後ろって言えよな。そもそもモッシュありきなのがダサい。演出しちゃってんじゃん。お前の音楽は、お仕着せのレールから外れたところにあるんじゃないのかよ。

……うーん、嫌いなものに対してはまじで辛辣になってしまう。すみませんね。でもさ、なんとなく曖昧なまま容認されている行為に対し、はっきり「否」と言うことのほうが、よほどパンクだと思う。

本当にダサいのは誰なのか。私はこう考える。あなたはどうか。

なお、モッシュやダイブを論じるときに挙げられる「自己責任」を「自分が怪我をしても受け入れる責任」と勘違いしている人もいるようだけど、正しくは「他者に怪我を負わせたときに賠償する責任」だからな。それは間違えないようにしてくれ。

まあ、想像できなくもないのよ。おそらく、音楽を聴いたときに内に入るタイプと、外に出るタイプの違いなんだろう。もっと言うと、外に出るときに身体表現になるかどうかの違い。これに関しては、どちらが良いとか悪いとかではない。ただの傾向だ。身体表現が行き過ぎるとモッシュやダイブになる。「幸せなら手を叩こう」が過剰な人たち。

私はわりと内に入るタイプで、自分の内側にある円筒形の構造物を、地下に向かって螺旋状に降りていく、そういう感覚だ。深く沈み込み、目を開けているのか閉じているのか分からないほどの暗闇のなかで、音楽との隔たりがなくなっていく。

とはいえ、外に出ないタイプでもないのよ。私の場合、身体表現ではなく言語表現になるだけで。そうすると、私がライブの後に書く文章は「言語表現としてのモッシュ」と言えなくもない。それがいかに自分本位なものか、私は、痛いほど自覚している。


おまけ
12月に、あるバンドのライブへ初めて行く予定なんやけど、そういやWikipediaに「アコギでモッシュを起こす唯一のバンド」って書いてあったぞ!と思って。整理番号がまあまあ良いから前方に行けそう、でも怖い、のあいだで揺れている。

これまでに参加したライブではモッシュやダイブに巻き込まれることもなく、見かけたことすらなかった。経験したら何か変わるのかしら。でも、やっぱり怖いなぁ。。だから教えてほしい。それがどんな感覚なのか。Twitterを見ても「うぇーい楽しい〜!」くらいの感想しかないんだもん。全然足りない。誰か書いてくんないかなぁ。

あと、やや脱線して、欧米の握手の文化はおもしろいな〜とも思った。身体的接触って、かなりの親密さがあるよね。物理的に手のひらを合わせることで互いに開かれるというか、友好の象徴として機能しているんだろう。