部屋と沈黙

本と生活の記録

悲劇でも喜劇でもない

観たことがない映画のサウンドトラックを聴く。“Mon chien stupide”、2019年のフランス映画で、スランプに陥った小説家が主人公らしい。かたわらには犬。音楽はブラッド・メルドー。メインテーマといくつかのフレーズ、その編曲で構成されている。

スマートフォンで音楽を流しながら料理をし、食事をすませ、テーブルを片付けていると、まるで私の生活が物語になったような気がする。悪くない気分だ。

“観たことがある映画”のサウンドトラックならば、その映画のワンシーンを思い返すくらいだろう。でも、“観たことがない映画”のおかげで、私の生活は架空の映画に入り込み、とりとめのない時間は物語性を帯びていく。観たことがない映画の物語性を借りて暮らす。

生活は物語ではない。劇伴はない。大抵は悲劇でも喜劇でもない日々が続く。でも、たまにはこういう日があって良い。ヘンリー・ダーガーだって、15,000ページもの物語に守られて暮らした。