部屋と沈黙

本と生活の記録

2022年12月11日、NUMBER GIRLの再解散によせて

向井秀徳は語らない。向井秀徳は見据える。眼差しで刺し、暴かれる正体を、無言のまま指し示すのだ。

2022年12月11日、NUMBER GIRLが再び解散する。

冒頭の文章は、私がNUMBER GIRLについて書こうと決めたときに思いついたものだ。かっこつけるところはしっかりかっこつける向井秀徳が好きだから、私もかっこつけて書きたかった。でも、NUMBER GIRLオールナイトニッポンを聴き、良い意味で気が抜けた。

私にとって、NUMBER GIRLは特別なバンドである。そういう人はきっとたくさんいるだろう。私はそのなかの、取るに足らない一人にすぎない。でも、私にとってどう特別なのかは、私にしか書けないはずだ。どうしようもなく心がざわざわする、NUMBER GIRLの“あの感じ”。その正体を、今ならば書けるかもしれない。

中学生くらいまでは、“今どき”の音楽の良さ、というものがよく分からなかった。当時はピアノを習っていたから、先生が弾くドビュッシーや、練習曲のなかに好きな曲はあったものの、いわゆるヒットソングの良し悪しが分からなかった。好きでも、嫌いでもない。音楽番組は退屈だった。みんなが良いと言っているものの良さが分からないのは、私がダサいからだと思っていた。

そんなとき、私の音楽観に大きな衝撃を与えたのが、椎名林檎である。……ここでNUMBER GIRLとはならんのが現実的で良いやろ?私が知らなかっただけで、世のなかにはいろいろな音楽がある。そう気づいたのが、中学3年生のころだった。

それからは、深夜の音楽番組を録画したり、音楽雑誌を立ち読みしたりするようになった。学校帰りにレンタルショップへ寄ってCDを借りる。NUMBER GIRLを初めて聴いたのは18歳の冬で、県外の大学に進学することが決まったころだったと思う。

最初はなんだかよく分からなかった。でも、無性にかっこいい。

それから20年経った今も、音楽的な側面からNUMBER GIRLの楽曲のかっこよさを説明することはできない。ほかに聴いたことがない。 NUMBER GIRLの音は、NUMBER GIRLにしか出せない。ギターの、ベースの、ドラムの音が集まって、NUMBER GIRLの“あの感じ”になる。

ただ、言葉の側面からなら、私にも“あの感じ”が書けるかもしれない。

多くのヒットソングは「君と僕」で構成されている*1。好き、嫌い、恋してる、愛してる、振り向いて、行かないでなど。それがみんなに受け入れられて、ヒットする。つまり「君と僕」の関係性のなかから世のなかを見ている人が多いのだ。

それは、私の世のなかの見方とはすこし違った。私のは、言うなれば「俺とこの世界」である。過剰な自意識と大げさな世界観。個人間の好き嫌いを差し置いても、俺と、この世界の“本当”が知りたい。

とはいえ、受け入れられたかった。「君と僕」の関係性、個人間の好き嫌いすら上手くやり取りできないくせに、何が「俺とこの世界」だよ、と思いながらも、それを捨てることができなかった。矛盾する自意識。あのころは、己の歪さを持て余していた。

おととしの事件を誰も覚えておらんように
オレもまた この風景の中に消えてゆくのだろうか
“ZEGEN VS UNDERCOVER

普通に物事を見すえる力が欲しい
“桜のダンス”

歩いている 知り合いはいない
街ん中 誰も知らない
覚えているのは冷たい感触と 朝日が差しこむ部屋のあのカンジ
“性的少女”

俺はおれをとりもどすのをじっと待ってる
OMOIDE IN MY HEAD

幼いころから 知っていたことは 多くある
“YOUNG GIRL SEVENTEEN SEXUALLY KNOWING”

お前はそれを見たことがあるか、お前はそれを知っているか。共感を求めず、ただ指し示す。NUMBER GIRLを聴いていると、私は私のままで肯定されているように感じる。単純な“共感”とは違う。幼いころから知っていた“何か”を共有している感覚。私と似たようなものの見方をする人間がほかにもいる。「俺とこの世界」の関係性を別の何か、たとえば音楽にできる人間がいる。それも、ものすごくかっこいい音楽に。


日常に生きる あの娘は 普通に生きて
病気もせずに 惑わされずに
オレは ホントに それは 正しいと思う
“日常に生きる少女”

結局、NUMBER GIRLのライブへは行けなかった*2。昔も、今も。映画館でのライブビューイングすらない田舎町で、私は私の日常を生きている。未だに自意識過剰だし、取るに足らないし、この世界の“本当”が知りたいと思う。でも、そういう人間がいてもいいと、強く思う。

*1:ちなみに「僕と君」だと途端に岡村靖幸感が増すのはおもしろいと思う。

*2:最高のライブバンドなのに……。まじで無情だよ。