部屋と沈黙

本と生活の記録

the band apart 25th anniversary ITa FES 感想【前編】

板橋区荒川河川敷で行われたthe band apart主催の音楽フェス“ITa FES”へ行ってきた。5年の延期を経た記念すべき第1回は、バンド結成25周年の節目でもある。

私が初めてバンアパを知ったのが大学1回生のころだから、かれこれもう20年くらい経つ。とはいえ、ファン歴の大半は音楽だけを繰り返し聴いていた。雑誌のインタビューはほとんど読まないし、ライブにも行かない。失礼極まりないが、わりと長いことメンバーの顔と名前が一致しなかった。荒井さんの地声を聞いたのは初めてライブに行った35歳のときで*1、終演後にドラムスティックを投げた木暮さんに驚き「え!?なに!?まじであぶねぇ!」と思った*2。そういうもろもろを、ほとんど知らなかったのだ。

要するに、私は20年来のにわかファンである。ただし、20年のあいだファンを続けているバンドはthe band apartを除いて他にない。


ITABASHI x TANITA x asian gothic label presents
ITa FES
the band apart 25th anniversary”
2023.4.15 Sat. - 2023.4.16 Sun.

冷たい雨が降り続いた初日。都営三田線西台駅から会場まで歩いて向かう。

アジゴシが公開した会場までの道のり動画は、もっぱらおじさんとおじさんの照れ具合が見どころで、目印になりそうな周囲の様子がほとんど分からず笑ってしまう。


おじさん(荒井さん)が歩いてるのを見てる、みたいな動画

案の定、道に迷いがちな私はさっそく出口を間違え、改札を出た瞬間に「……違うな!」と思った*3。その後なんとかリカバリーし、ダイハツの看板を右に曲がって、口ロロの“00:00:00”が聞こえるなか、世界一急な階段を登る。

今回は14分にアレンジされた合唱バージョンだったらしい。もともと祝祭的な雰囲気のある良い曲だから、合唱で声が重なると、音の印象はより強くなる。もっとちゃんと聴きたかったな〜。。

時報で始まるといえば『サマーウォーズ』もそうだよね(BPM的にはちょっと速い?)。暗闇に時報のカウントが響いて、導入、BGMからのファンファーレ、タイトルロゴがバーン!オーケストラ!!!って感じでかっこいいのよ。物語的にもカウントダウンが大きな意味合いを持つからなお良い。

会場に着いた直後は適度な運動のおかげで汗ばむほどだったのに、雨に打たれながら立っていると、本当に寒い。予報では最高気温が15度。念のために持参しておいたウルトラライトダウンを着込み、もう一度レインポンチョを羽織る。使い捨てカイロの封も開けた。

初日の目当てはスカートとBREIMEN。私がスカートを知ったのは、音楽よりも澤部渡の文章が先だった。

何年前だったか*4、何かのきっかけで澤部さんのブログを見つけて、感覚を言葉で捉えるのが本当に上手い人だな〜!と思ったんよね。そこから、どうやらミュージシャンらしいぞ、ためしに聴いてみるか、みたいな。

スカートの良さは“歌わない”ところーー、だと語弊がありそうなんだけど、物理的に「歌わない」ことが、より「歌う」に近づく瞬間があると気付かせてくれたのがスカートの音楽だった。

たとえば、最初のフレーズで歌っているところを、次のフレーズでは歌ってなかったりするのね。敢えてボーカルを抜いてる。そこがさ、実際に歌ってる以上に“歌って”るのよ。ボーカルが無いのに。無音がいかにうるさいか、みたいなことを音楽でやってる。メロディで歌い、“歌わない”ことで“歌う”。

今回のフェスでやった“視界良好”、“さよなら!さよなら!”もそうかな。



MCで地元の本屋さんのエピソードを聞けたのがうれしかった

“CALL”も好き。良いよねぇ!

BREIMENのほうは、原さん*5のツイートで知ったバンド。

そこから2ndアルバム“Play time isn’t over”を聴いて、1stアルバムの“TITY”も聴いて。2ndはAからZへループしてる構成もおもしろかった。学校のチャイムの音階とか、子守唄とか、誰もがどこかで聞いたことがあるメロディを引用し、展開させていく。音楽が好きな人も、興味がない人も、皆がなんらかの音楽に囲まれて生きていることを示すみたいに。

BREIMENの音楽には、和音の飾りけを必要としないグッドメロディがあると思う。これはブラッド・メルドーのアルバム“HIGHWAY RIDER”を聴いたときに感じたことなんだけど、サックスとかの単音の楽器は、メロディが良いと、まじで抜群に良いのよ。音が伸びるし、ストレートに伝わる。和音と比べて単音はすごく露わだから、相当強いメロディが要求されるところを、BREIMENは歌メロとサックスでやってる、みたいな感じかなぁ。

後夜祭で口ロロの村田シゲ(シゲさん)が「(高木祥太は)もっと上にいける」と言っていたけれど*6、私もそう思う。“色眼鏡”を聴いたときに、これはアイドルに楽曲提供してもハマりそうだな〜と思った。メジャーだのインディーだの、売れてる売れてないでマウントを取ってみたり、逆に腐したりとか、そういうしょうもないことはさておき、売れる音楽、多くの人に好かれる音楽には、それなりの理由と強度がある*7。そういうところにいける人なんじゃないかなぁ。

最近の曲では“チャプター”が好き。

あと、THEティバがめちゃくちゃ良かった。

いや〜、かっこいいね!!!びっくりした。こういうのもフェスの醍醐味だと思う。知らなかったことを知ったり、聴いたことがなかった音楽を聴いたりするのがいちばん楽しい。目が覚める気分。見つけた〜!みたいな。爽快だよね。

彼女らのPVを見ていると、なんとなく『乙女の祈り』を思い出す。


映画の結末はもう記憶の彼方なんだけど、空想の世界に取り込まれた2人の少女が、やがて取り返しのつかない凶行に走る、実話をもとにしたストーリーだったと思う。浮遊感と鋭利さが同期していく、それを彼女らの楽曲にも感じる。ほかにも『パンズ・ラビリンス』とか『ピクニック・アット・ハンギング・ロック』とかさ〜、小説だと『西瓜糖の日々』みたいな、そういう物語の、底に流れている感覚と似てる。

あとはもう、それ以外のバンドもまとめて全部良かった、なんて書くと乱暴で陳腐な感じになっちゃうんだけど、事実だからどうしようもない。誰か書いてくれ。もっとちゃんと聴きたかったのは、CONFVSEとDOVVNTIMEかな。ご飯を食べてたり、トイレや物販の列に並んでたりすると、どうしても散漫になってしまう。しかも、一生降り続くような雨のなかだぜ。あまりにも降るから、心のなかでNUMBER GIRLの“DRUNKEN HEARTED”歌ってたもん*8


DOVVNTIMEはフェス当日の音源の一部をYouTubeにアップしてくれている

初日のラストは、坂本真綾をゲストに迎えたバンアパのセット。個人的には“WHEN YOU WISH UPON A STAR (星に願いを)”を聴けたのが感慨深かった。私がバンアパを好きになったきっかけの曲だったから。

お昼ごはんは、バンアパファンのソーセージ屋さん“マチガイネッエゾベース”のホットドッグ。出来上がりを待っているあいだ、私がショップカードを手に取ったら、奥様の方から声をかけていただいて、まだTwitterをフォローする前だったのに、キラキラのシールをいただいてしまった。


かわいい

雨のせいで肝心のホットドッグの写真がないけれど、あったかくてピリ辛で美味しかったな。。食べものってすごいよね。音楽よりすごいとこあるよ。なんてったって物理だもん。直接的に人を生かすじゃん。それが美味しいのは最高だと思う。

後編へ続くーー。

*1:荒井さんの地声はかっこいい。

*2:角度が、ものすごく鋭角だった。

*3:西台駅には、出口が、ふたつある!

*4:たぶん10年くらい前?このブログでは2017年に“ランプトン”のことを書いてるね。

*5:the band apartのベース、原昌和。念のため。

*6:「ベース界の長岡亮介」とも言っていた。

*7:魔法少女まどか☆マギカ』だっておもしろかったろ〜。アニメだからとか、流行りものだからとかで敬遠するのは愚かな馬鹿のすることだ。

*8:しーとしとふるよー、あーめってやつはーろじょーひとーのあーめー……