部屋と沈黙

本と生活の記録

濃厚な関係

なんとなく不透明だった濃厚接触者の定義が更新された。

当初の定義には、たしか文末に「総合的に判断する」みたいな文章が添えられ、結局どうすれば最適なのかがよく分からなかったのだが、今後は「同居する人」と「マスク無しで15分以上1m以内で接触したことが明らかな人」に限るという。明快だ。

一人暮らしかつ職場では不織布のマスクをしているため、今後、私が濃厚接触者として認定される可能性は限りなくゼロに近いだろう。あとは発症さえしなければ……、私の勝ちだ!

「……と思ったんですけど、なんか無性に寂しくなっちゃって。これって要は家族かカップルですよね?それならもっとこう、実は私も濃厚接触してるんだぞっていう、色気を匂わせたいです」
「ああ、濃厚な関係ね」
「“限りなくゼロに近い!”じゃないんだよ……」

職場のパートさんから「出席できる子が2人になったクラスもある」とか「学校閉鎖になった」などと聞いても、かつてのような悲壮感、閉塞感はあまりないような気がする。どちらかというと、休校になった子どもたちの世話に困っていたり、濃厚接触者の欠勤が相次ぎ、仕事が回らなくなりそうなことに困っていたり、という印象だ。

濃厚接触者の定義が緩くなったことに対して、私の周囲では、それほどの混乱はないように思えた。懸念の声もほとんど聞こえてこない。私としては、この緩みは歓迎で、ようやく自分の守備範囲が見えたし*1、これまで保健所や医療従事者が抱えていた重荷を、私も一緒に持てるようになった、というか。彼らには「死を食い止める」といういちばん重い荷物を持ってもらっているんだから、それ以外の、私が持てる部分は持ちたい、と思う。

「医療従事者の皆さん、ありがとうございます」への違和感が、ようやく解消されたような気がする。「ありがとうございます」では足りなかった。「荷を分かち持つ」だよ*2

なお、私の“濃厚な関係”不足は、上司の「動物は感染するんかねぇ?」という一言で無事解消された。

「たぶん感染するでしょ。たしか、猫が感染したっていうニュース見ましたよ……あっ、犬だ!実家に犬がいます!犬はマスクせんし……」

ソーシャル・ディスタンスなどお構いなしに駆け寄って、べろべろ舐めるし甘噛みするし、超濃厚。超濃厚接触。私には超濃厚接触犬がいる。その事実が、私を寂しさから救ってくれる。やったね!

……でもさ〜、こういう軽口が気の緩みなんかねぇ。親しい人といるときの私なんて、思いつきの軽口ばっかだよ。しょうもないことが、ほんとに好きなんだよ……。犬、健康でいてくれ。そして私、健康でいてくれ。私にとって唯一無二の濃厚接触犬、あるいは犬にとっての濃厚接触者である、お互いのために。

*1:これまでは守備範囲が広すぎて見えなかった。見えなければ当然、守るのも困難になる。

*2: これ、うちの所長がよく引用する。