実家へ行ったついでに、本棚からリンドグレーンの『長くつ下のピッピ』を抜き出す。私が読んでいたのは講談社の青い鳥文庫版。まえがきによると、シリーズ3作品からリンドグレーン自身が選んだベスト版の全訳らしい。
子どものころはとにかくたくさん読みたかったから、とりあえず分厚いものを選んでいた。両親からは「あれ読め、これ読め」とは言われなかったし、この本もやはり分厚いから選んだのだろう。奥付は1993年。9歳か10歳のころだ。
このあいだは「ピッピがむちゃくちゃする話」と書いたけれど、あらためて読むと、ピッピがまじでむちゃくちゃする話だった。むちゃくちゃしすぎて、“子どもの感性を失った者と思われたくない大人”の私では「倫理的にどうなんだ」と心配にもなる。たとえば、自宅の屋根裏で見つけたピストル2丁で天井に穴を開けたり、それを友だちにプレゼントしたり。子どものころは楽しく観ていた『ホーム・アローン』に「それって傷害(刑法)じゃねえのか……」と口を挟みたくなる、そんな大人になっちまったのよ。
好きすぎて小口に名前を書いている……
赤毛、そばかすだらけの顔、左右で色の違う長くつしたに、ぶかぶかの靴。ピッピが「馬一頭でも、平気でもちあげる」のは強さの比喩表現じゃなく、まじで持ち上げるから笑ってしまう。
牛も持ち上げる
なかでも“さがし屋さん”のエピソードが好きだ。
「世界じゅう、いろんなものでいっぱいでしょう。だから、どんなものがどこにあるか、ちゃんとさがしだす人が必要なの。さがし屋さんっていうのは、それをちゃんとさがしだす人のことよ。」
アストリッド=リンドグレーン『長くつしたのピッピ』より
道端に落ちていた錆びだらけのブリキ缶は“お菓子入れ”(あるいは“お菓子いらず”)になるし、糸まきはシャボン玉吹きにも、首飾りにもなる。芝生で寝ているおじいさんを見れば「あれ、地面の上にあるのよ。あたしたち、あの人を見つけたんだわ。もって帰ろうよ。」だよ?なんかもうすごすぎる。『星の王子さま』が好きな人には本当に申し訳ないけれど、「いちばん大切なものは目に見えない」より、よっぽどセンスがあると思っちゃうな。
だってこれは“ものの見かた”の話だ。ブリキ缶をかぶれば「夜中ごっこ」ができるし、おじいさんも「地面の上にある」。あらゆるものをためつすがめつ、そのものの良さを見出し、結びつける。一方向からの見た目だけで、何かを決めつけたりはしない。
ピッピはもしかすると“皆に好かれる女の子”とは言えないのかもしれない。でも、皆にとって忘れられない女の子であることは確かだ。それってなんだか皆に好かれるよりももっと特別なことのように思える。